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SF読もうぜ(228) アーサー・C・クラーク『神の鉄槌』

img172.jpg 西暦2109年、太陽に接近しつつある未知の小惑星が発見された。その後の観測の結果、怖るべき事実が判明、この天体は八ヵ月後に地球と衝突するというのだ!そうなれば爆発の被害はもとより、粉塵による太陽光の遮断と硝酸雨のため、地球は今後数十年間居住不能な死の星と化してしまう。この危機に際し、最新鋭の宇宙船〈ゴライアス〉は特殊任務を命じられ小惑星へと向かったが・・・・・・巨匠が満を持して放つ迫真の宇宙SF!

なかなか面白かった。

 小惑星が地球を襲う。恐竜が滅びた原因で一番の有力説は隕石の地球衝突だそうですが、それは同時に人類がその憂き目に遭う可能性をも示唆しています。
 「杞憂」という言葉があります。杞の国に天が落ちてきたらどうしようと、夜も眠れないほど心配している男の話から、無用の心配をすることを言うようになりました。しかし、実際には雷に当たって死ぬ人もいれば、隕石に当たって死ぬ人もいたわけです。心配してもどうしようもないことかもしれませんが、やっぱり怖いもんは怖いじゃありませんか。実際に小惑星が降ってきたら、原子力発電所が火災にあったら、核爆弾が投下されたら・・・・・・確率的に低いとはいえ、実際に存在するこの脅威をフィクションの中で体験することで、僕たちは「お話だから」という認識で心の平安を授かっているのかもしれません。

 新興宗教として登場するイスラム教の変異したクリスラム教。終末の預言を実行しようとして、小惑星カーリーを地球に到達する軌道から外そうとする装置に爆弾を仕掛けます。単純にイスラム教の系列に属さず、アメリカ人が創始したものとして描いたところに、クラークの懐の深さというか、謙虚な姿勢が見られて好感がもてます。人間は生きたいとばかり願うばかりでなく、死へ向かうことを願う潜在心理が働いている。キリスト教の終末思想とイスラム教の原理主義を併せ持つ複合的な宗教ということでしょうね。

 火星でのディズニー・マーズの様子が面白かったですね。ブラッドベリの『火星年代記』、バロウズの火星シリーズ、ウエルズの『宇宙戦争』のアトラクションがあったりして、思わずニヤリとしてしまいました。あとは火星の地形に名前をつけるときに、科学者の名前だけでなく、「ウエルズ、バロウズ、ワインボウム、ハインライン、ブラッドベリ」などの名前をつけるところもおかしかったです。クラークの名前は筆頭にくると思いますが、自分の名を挙げないところが、やっぱり謙虚。

 全体的な世界観はラーマとモノリスのない『宇宙のランデブー』+『3001年終局の旅』でした。スペース・ガードは『宇宙のランデブー』の冒頭でも語られていますしね。解説で「神の鉄槌」はSFではけっこうあるパターンの一つだということですので、ほかにも同傾向の物語(『シヴァ神降臨』『悪魔のハンマー』等)があるようなので読んでみたいです。「ディープ・インパクト」や「アルマゲドン」も、なんだか再見したくなりました。

 アーサー・C・クラーク作品感想
 『幼年期の終り』
 『イルカの島』
 『海底牧場』
 『宇宙のランデブー』
 『2001年宇宙の旅』
 『2010年宇宙の旅』
 『2061年宇宙の旅』
 『3001年終局への旅』
 『神の鉄槌』
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