作家のロロ・マーティンズは、友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦終結直後のウィーンにやってきた。だが、彼が到着したその日に、ハリーの葬儀が行なわれていた。交通事故で死亡したというのだ。ハリーは悪辣な闇商人で、警察が追っていたという話も聞かされた。納得のいかないマーティンズは、独自に調査を開始するが、やがて驚くべき事実が浮かび上がる。20世紀文学の巨匠が人間の暗部を描く名作映画の原作。(ハヤカワepi文庫:紹介文より)
まず、設定の妙。第二次世界大戦後の四か国の分割統治のウィーン。そこからくる緊張感と時代感。なんとなく日本が四か国に分割統治される小説「四分ノ一」を思い出しました。
そして語りの妙。語り手は英国の警察官。ハードボイルドのような無感動さを感じるのは、事態にあたり探索を続けるのが西部劇作家の主人公ロロであるからだろう。
ストーリーの妙。唐突な一人の男の死から始まり、行くあてを失った作家の彷徨、友人の意外な正体、奇妙な証言者、女性との恋、第三の男の発覚、目撃者の死、幽霊の出現、囚われの身、真相の発覚、大捕物!と今こうやって書き出してみると、あの短い作品の中でジェットコースターのような怒涛の展開なのです。特に大下水道での追跡はエンターテイメント。悲しみを残しながら、裏切られた二人が腕を組むラストも余韻が残ってすばらしい。
一気に読み抜けるビターな大人の冒険譚、ミステリーでした。
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