「役員室」と書かれた部屋の中で、十人の役員たちが、暗い顔つきで、だまってすわっていた――。金星商事に不渡りをつかまされ、倒産目前の彼らは、オリオン物産からの融資に一縷の望みを託していたのだ。もしこの交渉がうまくいかなければ・・・・・・(「月夜さらばより)。全集としては初の収録になる「大混戦」「ハーモニカ」を含む全四十篇からなるショートショート全集第二弾。
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「かえって来た男」
子どもたちが浜辺で見た男は途方に暮れた表情をしていたという。
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「交通渋滞」
車、車、車、車。交通渋滞は続き車の列はどこまでも・・・。
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「超人の秘密」
その黒い超人と呼ばれる男はオリンピックで金メダルをとりまくった。各国コーチが注目したのは彼が試合前に唱えるおまじない・・・。
オリンピックイヤーの今年に読むのは変な感じ。おまじないは実は・・・という話で皮肉がきいていていいです。
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「秘密計画」
スポーツ大会で中の上の成績をおさめたその国は考えた。外国選手の優秀な種を受け継いだ子をつくれば・・・。
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「モデル」
モデル小説の告訴事件で名の売れた弁護士のもとを美しい中年男女が訪れた。
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「よびかける石」
妹のチコがこの頃ひどくこわい夢を見るという。そして良夫もその夢を・・・。
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「たたり」
物価上昇、株価下落、賃上げリスト・・・。国難は続くが・・・。
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「きつね」
まっくらな山の中を一人の男が歩いていた。彼を乗せてくれた運転手はきつねに化かされる話を始める。
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「公社計画」
セックスは世の中に氾濫した。人間の性は自然なものであり、政府はそれを公のものとしたが・・・。
文芸の最後のフロンティアはポルノかもしれない――と最近僕は思うわけですが、それももう書き尽くされた感がしないでもありません。セックスを公然化しようというこの試みが僕は好きですが、最近の風潮ではさらに厳しくされるようなので、こんなことをあまり書いていると捕まりかねません。この短篇も世の中の反応など、社会的な面が面白いです。
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「故障」
自動販売機の故障でジュースは・・・。
うーん、短いんですけど、ナンセンスでいい作品です。ドラえもんのような光景を想像しました。これで滅亡するなら、それはそれで楽しいかもしれません。
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「風俗バー」
京都西陣にあるというTというバー。大正時代のカフェーを味わわせてくれるというが・・・。
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「月よ、さらば」
会社の命運を握る電話を役員たちは待っていた。
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「できそこない」
パーティーのホストの作ったロボットはものをつくることができるというのだが・・・。
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「星碁」
消えては生まれる星々、その運命を握っているのは実は・・・。
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「倒産前日」
すべての支払いは明日。しかし、社長の丸山には金策がまるでないのだった。
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「エルサレムの地下にて」
エルサレムの地下で大きな空洞が発見された。それは・・・。
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「卵と私たち」
妻の産み落としたそれは、まるで玉のような・・・。
今読めばブラック・ユーモアとして読めます。ドタバタ的作品で、漫画的な描写が行われています。妻のノリツッコミ(ノリ悲鳴?)に笑いました。
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「仁科氏の装置」
人生に絶望を感じた仁科氏はその生涯をかけて発明した装置を起動させる。
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「正月日記」
二〇一×年、古式正月を行おうとする男の日記。
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「初夢」
その宇宙船は地球に七年ぶりに近づいていた。
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「空中住宅」
地上に縛り付けられるより、空中に家を。その社長が売り込みをしたその理由は?
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「通天閣発掘」
三五〇一年、近畿に宇宙橋が架けられることになった。その候補地に・・・。
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「冷蔵庫の中」
吹雪の中、パーティと離れた青年は山小屋にたどり着く。
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「新型貯金箱」
その貯金箱はお金を入れる度にサービスをしてくれるのだ。美しい女の機能を使って・・・。
悲惨な物語。女につぎこむお金を貯金箱に・・・。でも貯金箱が女だから代わりがない・・・。行き過ぎのラストは逆に爽快。
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「四次元トイレ」
借金取りに追い回されたK氏はある日、トイレに飛び込んだ。
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「黒いカバン」
わたしは五角形をした奇妙なカバンを拾った。するとおかしなことが。
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「牛の首」
その牛の首という怪談は誰も語れないほどこわい怪談だった!
うーん、考えさせられるお話。恐怖というのは、「そのものの正体がはっきりわからない」ことから生まれるものだと思うので、これが究極の怪談だなあという気がします。すごい。
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「期待はずれの人間象」
老人の精液は動物を人間に近しくする作用があった。
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「新都市建設」
新都市建設の際、老人は古いものを大切にする心を説くが・・・。
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「忘れられた土地」
月と地球の軌道の間に広がる空間のどこかに漂う土地があるという。
こういう話好きです。共同幻想の極致がこういう形をとり、それがなくなると滅んじゃうという含蓄のある話だと思います。
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「地下道」
新幹線の乗客の異常な減少は国鉄を悩ませた。
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「超能力者」
「君はほんとうに、超能力というものが、実在すると思っているのかね?」岡本氏は男にそう尋ねた。
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「三本のスキー」
雪の上を二本並んで走っているスキーのあとが、立ち木のところまで来ると、急に間隔が広くなって、立ち木の両側を通り抜けている。
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「標準化石」
年代を特定するための標準化石が見つかった。しかし、そこにはあらゆる年代の化石が一緒に・・・。
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「お花見園」
お花見園に来た良子は人気のないのに驚いた。
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「鏡の中の世界」
飛行機が密雲の中に突っ込んだその時、異変は彼らを襲った。
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「順送り」
情容赦ない攻撃をしかけてくる奴ら・・・。そいつらに追いつめられているのは・・・。
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「けだものたち」
その惑星原産でないけだものは日に日に数を増し・・・。
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「大混戦」
コンピュータのつながりのおかしさから、とんでもないドタバタが・・・。
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「ハーモニカ」
息子はコンピュータ言語を使い、隣の少女とおしゃべりしている。取り残される不安に私はおびえ、そして・・・!
総評:なんだか△が多いのは、こういうふうにショートショートをずっと読む弊害で、パターンがある程度わかってきちゃうからなのです。けっして作品の質が落ちているとは思いませんが、読者(僕)の印象の問題です。読者は貪欲ですから、並みの刺激だと満足いかなくなってしまうのです。さて、ベストは間違いなく「牛の首」。「公社計画」も好きですが、やっぱり味の深さが違います。
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