邦題のなんと素晴らしいこと!
現代は「THE STARRY RIFT」。直訳すると「星空の裂け目」(になるのかな?)。人類の未踏の領域「リフト」周辺を舞台にした三つの連作短編。そして、その短編の合間をつなぐブリッヂとして、デネブ大学の図書館において、古い三つの物語を貸し出すという体裁がとられています。その三つの物語は以下の三篇。
☆第一話「たったひとつの冴えたやりかた」The Only Neat Thing To Do
表題作。小型スペース・クーペを両親からプレゼントされた16才のコーティー・キャス。両親に内緒で連邦基地900まで飛んできた彼女は、リフトへと足を向ける。行方不明になった宇宙船から送られてきたメッセージ・ポッドを開いた彼女はその中にいた寄生生命体を体内に宿し、ともに理解し合える友人となったが・・・・・・。
◎第二話「グッドナイト、スイートハーツ」Good Night, Sweethearts
最終戦争に参加し、心に傷を負った男レイブン。彼はリフトにて、燃料切れになった宇宙船を救う業務に携わっていた。ある日、燃料切れとなった船に乗り込んだレイブンは、愕然とする。トラウマ治療のために心の奥深くに閉じ込められていた記憶を呼び覚ますできごとが起こった。かつての恋人がそこには乗っていたのだ・・・・・・。
◎第三話「衝突」Collision
ジールタンではジューマノールに対する戦争の準備が進んでいた。彼らは植民惑星にて、多くのコメノを殺し、奴隷として働かせているのだ!〈暗黒界〉のヒューマンの悪行への憎悪は、誤解によってヒューマン全体に広がっていた。一方、ジールタンに近づきつつある連邦の宇宙船においては、ある奇妙な精神感応が起きつつあった。自分に手が二本余分に増え、尻尾があるような感覚がするのだ・・・・・・?
やはり、第一話がすばらしい。「
痛い」物語を書かせれば、彼女の右に出るものがいない。
宿主を傷つけない方法を教える「師匠」が不在のために、衝動を抑えきれなくなった寄生生命体の幼生体たちは生物に寄生すると、その生物を殺してしまう。そう、まるで疫病のように。当然、疫病に感染した者は隔離されなければならない。
お互いに幼いコーティーと寄生体シロベーンはお互いの境遇から深い理解を示すようになるが、シロベーンが衝動を抑えきれなくなり、このままいけばコーティーを殺してしまうことがわかる。未知の地に足を伸ばしていたコーティーは感染を防ぐために、シロベーン共々
太陽に突っ込むことを決意する。これが、「
たったひとつの冴えたやりかた」だと・・・・・・。相手を責めることなく友達になれてよかったというコーティーと贖罪の念に苛まれつつ深い感謝を表すシロベーン。涙なしには読めません。そして、心にグサグサと刺さってくるこの痛み。
第二話は盗賊との対決。アクションシーンも多く楽しめます。しかし、ただのお話では終わらないところがこの作者らしい。年老いた恋人と年若いそのクローン。どちらを助けるか悩む主人公レイブン。ここも面白いのですが、なんせラストがよい。
愛を得て束縛されるか、それとも、安息を取らないで自由をとるか?その選択の前に揺れ動くレイブンのさまに、さすがティプトリーだと読みながら賞賛せずにはいられませんでした。
第三話はファースト・コンタクトもの。異種族の生態の部分も実に面白いのですが、なんといっても自分の体に腕が二本増え、尻尾があるような感覚になる場面の描写がすばらしい。そして、それが逆転するラスト近くの描写もすばらしい。全体では船長アッシュの活躍が物語の中心となっている。船長の冷静さと仲間の死などの激烈な対比。相手種族クリムヒーンの無理解などにイライラしながら、気がつくとあっという間に読み終えていました。
残酷でいて、それでいてあたたかい。
それがティプトリーの作品を読むときに僕が感じるものです。外殻は氷のように冷たいけれど、それをかきわけ奥に進んでいくにしたがって芯がじんわりと手をあたためてくれる。そんなイメージなのです。
訳者あとがきには、ティプトリーが寝たきりの夫を射殺し、自らも頭を撃って自殺したと記されています。それも、彼女のやさしさゆえだったのでしょうか。いずれにせよ、彼女にしか書けない作品であり、その痛みとともに胸の中に残り続ける作品です。
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