久しぶりにSF研究。このカテゴリはSFに対する言及から、SFが社会的にどのような見られ方をしているのかを考えるものです。本日は三島由紀夫「一SFファンのわがままな希望」というSF同人誌『宇宙塵』に寄せられた文章です。
私は心から日本に立派なSFが生れることを望んでゐる。それで、(かう傲語してもよいと思ふが)、日本人によって書かれたSFには大てい目をとほしてゐるつもりである。
これが冒頭です。さて、次がこの文章の趣旨になるのですが、
しかしいかに未来の話とはいへ、國籍不明の片仮名名前などが出てきて、アメリカのハードボイルド小説のやうな言行を示すのにはとてもついて行けない。さうかと言つて、日本的な香りを出さうとしたものが、ミイラとりがミイラになつて、日本的感性に逆行するやうな結果になつたのもいただけない。
そして、この不満は結局純文学に対する不満と一緒で、日本SFの欠点が純文学全般の欠点のミニチュアのように思えるのが情けないと三島は書く。
SFは本来、いくら知的でありすぎてもよい自由なジャンルである。アメリカでも、SFには特有のスフィスティケイテッドな讀者が多いと聞いてゐる。日本のさういふ讀者の気むづかしい鑑賞眼をも満足させてくれるものが、續々と出て来てほしい。
そして、三島は海外作家のすべてを買っているわけではないとブラッドベリを「SFとしても邪道なばかりか、文學としても三流品」とやっつけ、「SFからはすくなくとも、低次のセンチメンタリズムが払拭されなければならぬ。」と主張する。
私は心中、近代ヒューマニズムを完全に克服する最初の文學はSFではないか、とさへ思つているのである。その意味で「宇宙塵」の地道な努力には、ひそかに敬意を拂つてゐる。
三島の理想とするSFの姿がこの最後の文章に表れていますが、オプティミズム的なSF、また、ブラッドベリのような抒情的な作品は気に食わないのでしょう。近代ヒューマニズムとは自然より人間中心の考え方だそうです。日本人によって書かれたSFは大てい読んでいると豪語している三島ですが、この前、小松左京の『牙の時代』の解説で、『日本アパッチ族』を読んでいたことがわかる部分がありますし、
彼がSFに興味を持っていたこと、その可能性に注目していたことがわかります。ただし、比較的SFに近い作家である安部公房との対談では、彼らはSFという言葉を一つも発していないし、
あくまで文学活動の中心ではなく、辺縁にあったのです。最もSFに近い作品である『美しい星』においても、あくまでSF的手法を使った純文学であり、SFではないと思います。
三島とSFを示す文章は
こちら(乗杉純という方のエッセイ)にもありますので、興味のある方は読んでみてください(ちなみに円盤を一緒にさがしたのは北村小松であって、小松左京ではないと思います)。
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COMMENT
SF紹介 ―アンドロイドお雪―
あの三島由紀夫がSFに対してこんな文章を残していたとは、かなり意外です。
余りSFの好きそうなイメージの人ではないので。
さて今回のSF紹介は、前回と同じ旧SFマガジンから、平井和正氏のSF中篇『アンドロイドお雪』をお送りします。
夢想剤使用で何度か逮捕した、余命幾ばくもない五反田老人のいる病院へ呼び出された野坂警部補は、自分の遺産を受け取ってもらいたいと申します。その夜、老人は息を引き取りました。
翌日、老人の言っていた『遺産』が訪れます。それはお雪という名の、特A級アンドロイドの美女でした。彼女はその日から、彼のアパートで暮らし始めます。彼女は料理も洗濯も掃除も、全てOK! 常に野坂の身の回りの世話をしてくれます。最初は渋っていた彼も、次第にお雪に好意を抱きます。
しかしある日から、野坂の体に異変が生じます。まるで何日も徹夜したかのように眼の下にクマが出来、痩せ細り、衰弱してゆくのです。しかも本人は自分の体の変調には気づかないのです。学生時代からの友人であるケイは、そんな野坂の異変を知るため、いつも彼の部屋に遊びに行くサイボーグ猫ダイに、彼の身に何が起こっているのか聞きました。ダイが見たもの、それは・・・。
(ネタバレになるので、ここまで!)
人間とロボットの恋愛を描いた作品ですが、なんとも怖いオチになります。この作品で僕の好きなキャラは、人語を喋るサイボーグ化された飼い猫ダイです。彼は人間観察が趣味で、いつも野坂のアパートの各部屋を覗く癖があります。口の構造の関係で、ダ行がラ行になるのは、ご愛嬌でしょう。
因みに、アンドロイド(android)は正式には『男性型ロボット』のことで、女性型ロボットはガイノイド(gynoid)と呼ぶのが正しいそうです。日本では、男女問わずヒューマノイド・ロボットはアンドロイドと呼ぶみたいですね。
ではまた。
Re:SF紹介 ―アンドロイドお雪―
平井和正は昔よく読んだのですが、けっこう読み逃している名作もあるので、また手にとってみたいと思います。好きなのは『超革命的中学生集団』です。永井豪のイラストもいい味を出しています。
ただ、ウルフガイは思想偏向気味でついていけないときもありますし、『幻魔大戦』もついていけない部分があるんで、読むのを中断しています。今、平井和正で読みたいのは高橋留美子を評した本があるので、それですね。