予備校受験のために上京した受験生孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年、雪降りしきる帝都東京では、いままさに二二六事件が起きようとしていた――。大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇!
重い。いい意味で。
タイムマシンでもなくて、時間能力者の話っていうのが大げさでなくていい感じです。全体的にスティーブン・キングを読むような気持で読みました。
戦前の時代にタイムスリップ。これからやってくる暗い時代を知っている我々とそれを知らない人々とのギャップ。歴史の分岐点ともなった二二六事件の最中。そして、流れる報道とは関わりなく不安ながらも続いていく一般の人々の生活。そのリアルさに物語の虜になっていきました。
蒲生大将の死とそれにまつわる謎というミステリー要素もあり、その根幹にSF設定が生きていて、必然性があって非常にすばらしいなあと思いました。謎がつぎつぎとばらけていくこの快感に、ミステリ作家としての宮部みゆきの芸をしっかり堪能いたしました。
時空を越える恋、人の想いにはいつもやられてしまうのですが、定型的なパターンでありながらも、やはり人の心を打つものです。最後の章は涙なしには読めません。もう十年以上も前の作品で、高校生の当時から読みたいと思っていたものの、機会あって最近読むことができました。読書の楽しさを存分に思い出させてくれた大切な作品になりそうです。
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