1945年の東京。空襲のさなか、浜田少年は息絶えようとする隣人の「先生」から奇妙な頼まれごとをする。18年後の今日、ここに来てほしい、というのだ。そして約束の日、約束の場所で彼が目にした不思議な機械――それは「先生」が密かに開発したタイムマシンだった。時を超え「昭和」の東京を旅する浜田が見たものは?
失われた風景が鮮やかに甦る、早世の天才が遺したタイムトラベル小説の金字塔。
舞台は1963年――この時点ですでに21世紀を生きている僕は、タイムスリップしたような気分になってしまうのですが(古いSFが好きな理由の一端もそこにあったりするのですが)、さらに昭和七年に主人公はタイムスリップしてしまうことになります。
戦前の東京は面白い。大正から昭和にかけての東京を舞台にした作品、また同時代の作品が好きです。エロ・グロ・ナンセンスの時代であり、キッチュな感じが非常に好き。この作品には時代の風俗が細かく描かれていて、たいへん楽しかったです。特にバーの描写、レイ子との探偵小説談義、寄宿した家での少年雑誌の画家のお話などが印象に残りました。
設定の細かさでいいなと思ったのは、未来が十二進法の世界になっていること。先生のノートに書いてある未来文字を解読するところなんかは、暗号解読の数学的な楽しみがありました。作者は工学部出身というだけあって、特にラジオに関する描写の細かさや、主人公の仕事についても、技術的なお話にリアリティがあって、感嘆しました。
もちろん、タイムマシンものの一番のお楽しみは、ばらまいていた伏線を最後に回収するときのあのパズルのピースがはまっていくような快感です。前半にそれらしきところがいっぱいあって、「こうかなあ?」と予想していたのがズバズバ決まっていくので、後半は畳み込むような展開でとてもページをめくるのが楽しかった!ただ読者にゆだねられている部分もかなりあって、それを読み終わった後、予想するのも一興でした。
そして、なにより最後の一文がすばらしい。
「新しい未来が開かれようとしている。
そして、新しい過去が開かれようとしていた。」
これを読んだときほど、時間旅行機がほしいと思ったことはありません。
たいへんすばらしい作品でした。
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COMMENT
SF紹介 ―金星応答なし―
『マイナス・ゼロ』、お読みになったんですね。凄く面白いでしょ?
玩具のお札やツイードの上着の謎が判明した時は、思わず噴出しちゃったものです。あと、時を越えた再会も、涙を誘う場面でした。
タイム・マシン、一度で良いから使ってみたいものです。
昨日、またSFを読破しました。スタニスラフ・レムの『金星応答なし』です。
時は21世紀初頭。人類はシベリアの原生林を開発中、地中から謎の物体を発見しました。それは一種の磁気コイルで、中の情報を解読した結果、それは地球に飛来した宇宙船の情報端末だと判明します。そう、あの有名な『ツングースカの大爆発』は、宇宙船の墜落事故だったのです。さらに調査した結果、その宇宙船は金星から飛来したものだと判明しました。
人類は金星人は地球侵略を企んでいると想定し、金星に探検隊を送ることになりました。かくして、宇宙船『コスモクラトール』号は、八人の隊員を乗せ、一路金星に向かって飛び立ちます。
果たして、金星に潜む謎とは?
スタニスラフ・レムは『ソラリスの陽のもとに』で有名ですが、この作品が本格デビュー作だそうです。金星の環境の描写は、とてもリアルでした。1960年には、映画化もされました。
なお、同じレムのSFで、ここでも紹介されている『泰平ヨンの航星日記』も入手しましたので、こちらも近々読んでみようと思います。
ではまた。
Re:SF紹介 ―金星応答なし―
レムの作品は大好きですし、『金星~』はSFの青年期のお話のようなので、ぜひ読んでみたいと思っています。『泰平ヨン』は積読のままで、長年待ち焦がれていた復刊なのですが、手に入れて満足している状態なので、仕事が一段落し、スイッチが入れば読み進めたいと思います。