〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。しかし彼は、以前より完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと出会ったことを契機に、伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが……。
すごいぜ。
全体主義の世界を描いたディストピア小説。
物語を読む基調として、なんとなくテリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』の光景が浮かんでいました。もちろん、『未来世紀ブラジル』もこの小説にインスパイアされているのでしょうから、当然といえば当然なのかも。
常に誰かに監視されている。ビッグブラザーのポスターの後ろに隠された監視カメラ。部屋に設置されているテレスクリーン。思考警察に連れ去られ、その存在すら抹殺される同僚。人間の快楽を奪い去られ、色彩の感じられない世界が描き出されている。僕の想像の中ではモノクロの世界が広がっていました。
その中でも唯一色つきで登場するのが、ヒロインであるジュリア。ジュリアとの逢瀬は恋は困難であればあるほど燃え上がるという一般論そのものの情熱的なものでした。そのささやかな幸せが思考警察によって粉々に打ち砕かれていく様子は非常に残酷なもので、特に収容所に連れて行かれてからの拷問の様子には背筋に寒気が走ります。
この世界からいかに脱け出すか?最近、生活との闘いに疲れている僕と主人公スミスの気持は妙にシンクロして、抵抗の地下活動へと走り出す彼は僕とすり替わり、彼の失敗は僕の失敗であり、本を閉じた後、妙に悄然とした気持になりました。でも、それ以上に「すごいものを読んだ」という気持が大きかった。
途中で登場する「寡頭制集産主義の理論と実践」というゴールドスタインの著書がたいへん面白いです。この小説の世界観を示すとともに、戦争が政権を維持する手段となっているところなど、現在の世界といろいろと照らし合わせながら読みました。こういった読み方に反対する人もいるんだろうけど、でもどうしても思い浮かんでしまう。1949年に出版された小説だけれども、その恐怖というものをいまだに我々に与え続けてくれる。「動物農場」でもびっくりさせられましたが、この小説はそれと同じくらいの衝撃を与えてくれました。
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