穏やかな陽射しが落ちる秋の一日、ボストン午後3時3分。世界は地獄へと姿を変えた。《パルス》。そのとき携帯電話(セル)を使用していたすべての人々が、一瞬にして怪物へと変貌したのだ。残酷極まる行為もいとわず、犠牲を求め続ける凶悪な存在に――。目前で突然繰り広げられる惨劇、街中に溢れる恐怖。クレイは茫然としていた。いったい何が?別居中の妻と息子は?巨匠の会心作、開幕!
ゾンビ好きは読め!
とばかりに、ゾンビ小説です。ただし、生きた人間が自我を失くし、その攻撃本能にたよって攻撃してくるだけなんですが。最初は。これだけを見れば、映画『28日後』のような感覚。ただし、感染源が携帯電話というところは違うのだけれど。
しかし、途中からはジョン・ウィンダムの『光る眼』のような感じに。テレパシーで会話し、異質な生物へと進化(?)してゆく「携帯人」の描写は圧巻です。群体となった「携帯人」はラジオのようにそれぞれの体にテレパシーを中継し、オールディーズな曲をその口から発し続けるのです。うーん、不気味。
ゾンビものは終末ものの一つの形態でもあるのですが、文明が崩壊し混乱状態に陥っていく様子(特に冒頭からのシーン)に暗い興奮を覚えたり、人間の本性とは?という問いを考えてみたり、そのような世界観が好きな人にはうってつけです(そういえば、最近破滅ものの傑作『海竜めざめる』も読みました) 。
キャラクターとして魅力的なアリスという少女が登場します。ある意味で主人公より主人公らしい戦う女性でしたが、途中で死んでしまい残念でなりません。しかし、これが凡百の小説と違うところでもあるのでしょう。必要とあらば切る。その残酷性がまたキングらしい。
結局《パルス》の正体はわからないのですが、まあ、世界の終わりなんていうのは結局そういうものかもしれません。当事者はきっとなにもわかんない。でも、そこで事態と戦い生き延びようとする。そして、最後に少しでも救いがあれば、読む僕にとっては少なくとも明日への活力となる。最悪の状態でもなんとかする精神さえあれば大丈夫!未来は開けてるぜ!『霊長類南へ』や『人類皆殺し』などの既成作品の予定調和をぶち壊そうとした作品を除いて、僕の知っている「破滅もの」SFのほとんどはそう教えてくれています。
大切なのは知恵と勇気だ、ということを再確認させてくれる楽しいエンターテイメント作品でした。
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COMMENT
SF紹介 ―ドノヴァンの脳髄―
『セル』、随分怖い小説みたいですね。携帯電話が媒体になるというアイデアが良いです。
キングの作品は、映画なら何度か見ていますが、小説はまだ読んだことはありません。一度、挑戦してみようかな?
今回は、古典的SFホラー、カート・シオドマクの『ドノヴァンの脳髄』を読破しました。めっちゃ怖かったです。
生物の脳を研究している医師パトリック・コーリイは、近所で起こった飛行機墜落事故によって、実験用の人間の頭脳を手に入れることに成功します。頭脳は培養液の中にて蘇生しました。
さて、蘇生させた脳と、どうやってコンタクトを取るか? 友人のシュミットのアイデアにより、テレパシーで脳とコンタクトを取ることにも成功したコーリイですが、その脳―大富豪ウォーレン・ホレイト・ドノヴァンの頭脳は、次第に生前の邪悪な人格が蘇り始めます。しかも、テレパシーは日に日に強くなり、コーリイの肉体をも乗っ取れる様になりました。今や脳髄そのものが、邪悪なモンスターと化したのです!
果たして、ドノヴァンを殺す方法とは?
カート・シオドマクはドイツ系アメリカ人の作家で、脚本家としても有名な人です(お兄さんのロバート・シオドマクは映画監督です)。この作品は、当時ニューヨーク・タイムスにて、『現代の恐怖』と絶賛され、今までに三度も映画化された古典的作品で、文章は古いものの、背筋の寒くなる内容でした。
なお、この作品には『ハウザーの記憶』という姉妹編もあります。こちらも近いうちに紹介しますね。
ではまた。
Re:SF紹介 ―ドノヴァンの脳髄―
SFホラー作品というのは、どうしてもB級テイストになりがちなのですが、そちらの作品はキングの作品よりは少し高尚そうな気がしますね。
三度も映画化されているとは聞き捨てなりませんね。ソフト化してるかどうか今から調べてみます。というわけで、今からロメロ監督の最新作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』をDVDで見ようと思います。わくわく。