懐かしさと素晴らしさに胸がキュンとなる物語。
マイオールタイムベストSF。通読して読み返すのは三度目になります。
再読のきっかけとなったのは、山下達郎のベストアルバムに収録されていた「夏への扉」というそのものズバリの曲です。
僕は過去から幸せをもち 未来へ向かい眠るのさ
そしてピートと永遠の 夏への扉開け放とう
だからリッキー ティッキー タビー その日までお休み
なにより書き出しからぐっとくるわけです。特に猫のピートに関する部分が。
彼はその人間用のドアの、少なくともどれかひとつが、夏に通じているという固い信念を持っていたのである。
この場合の「夏」というのは、「理想の状況」とか「幸福な状況」を示す象徴的な言葉となっているのでしょう。多くの人にとって「夏」というのは特別な意味合いを持った季節で、かくいう僕もその一人なのです。ザ・ハイロウズの曲の一節にこういう歌詞がありますが、まことに僕の実感を歌っています。
6月と9月にはさまれたのが夏じゃない
宝物の地図 胸のポケットに入ったなら(「夏の地図」)
さて、物語の最初の舞台は1970年。ところが、この1970年というのは、原作が書かれた時点では10年以上も未来でした。そして、主人公の「ぼく(デイヴィス)」が冷凍睡眠(コールドスリープ)で向かう未来は西暦2000年。現実でいえばもう10年以上も前なのです。しかし、その世界では重力を自在に操ったり、人の身の回りを世話してくれるロボットが実用化されていたり、宇宙開発がたいへん進んでいたりする世界なのです。このあたりの「ありえた過去世界」を堪能することこそ、古典SFを読むことの醍醐味なのかもしれません。
当然、そこではまだ実用化されていないながらも、タイムマシンというものが存在するのです。そして、それがあるからこそ、「僕」デイヴィスの大逆転が始まるのです。
そう、この物語の魅力はこの「大逆転」にこそあると僕は思うのです。アメリカではオールタイムベストの上位になることはないと新装版の解説にはありますが、しのびがたきをしのび、耐えに耐えたうえで、最後に迎える大団円!まるでW杯のときのなでしこジャパンのような・・・・・・。あまりにも日本人好み。
そして、SFというジャンルに足を踏み込む際に、入門書として手ほどきをしてくれ、甘い衝撃を与えてくれるという事実。このこともそれを後押ししていると思います。
なにより本を手にとった時に、「ロバート・A・ハインライン」と「福島正実 訳」という名前の並びが非常にいいではないですか。高校生の時に初めて読んだときには、あまりの面白さに夜を徹した覚えがあります。読み終えた後の僕はたしかに幸福な気分に包まれていました。そして、何度読み返しても、あのときと同じように幸福な気分を与えてくれるこの本は、毎度僕にとっての夏への扉を開いてくれるのです。
そういえば初めて読んだときには、まだ20世紀のうちで、物語の舞台の2000年にもなっていなかったのでした。残りの人生の中で、この物語にあと何度お世話になるのでしょうか。一生付き合っていく友人のような本だと思っています。
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