本日は石川喬司氏の「SF同人誌評 見事な仮説の世界『やぶれかぶれのオロ氏』(筒井)」です。
『第一回日本SF大会』というのがさきごろ東京で開かれた。集まったのは二百人。主催者は「こんなに多勢の人が・・・・・・」とびっくりしていた。二百人で多勢――とは、いささか非科学的な表現だが、ことほどさようにわが国のSF人口はとぼしいのである。
唯一の商業誌『SFマガジン』の発行部数が公称四万。ひところ出版界には「SFと西部劇に手を出せば必らずつぶれる」というジンクスがあったが、それをのりこえての読者開拓は容易ではなかったらしい。
こういった状況から、世界SF大会をやってしまうまでになったんですなあ・・・・・・。
しかし数が少ないかわりに、ファンの質はきわめて高い。創刊六年目をむかえた同人誌『宇宙塵』や、季刊で七号を数えた『NULL』のグループの中には、市場さえ拡がれば立派にプロとして通用する実力をもった連中が多い。現に『宇宙塵』同人からは、星新一、矢野徹をはじめとして数人の有望なSF作家が巣立っており、最近では、同誌に途中まで連載された今日泊亜蘭の長篇『光の塔』が東都ミステリーの一冊として刊行されている。
推理小説の同人誌が、一部を例外として、きわめて低調なのは、すこし筆が立てばすぐプロとして登録される変則的な売手市場のためだろうし、一方、SF同人誌が隆盛なのは、それとはまったく正反対の事情によるものだろう。
ここまでは、SFの市場の狭さがよくわかると思います。ここから、同人誌評として『NULL』掲載の筒井康隆『やぶれかぶれのオロ氏』が賞揚されております。ここでは同年9月23日に安部公房が『朝日ジャーナル』に寄せた文章(確認しておりませんが『日本SF論争史』にも所収されている「SFの流行について」だと思います)の中の「仮説の文学」という言葉を使用し、褒めておられます。
『NULL』にはこのほか八篇、『宇宙塵』(五十九号)には五篇の創作が掲載されているが、いずれも面白い。このような良質の作品が一部のマニアの間でしか享受されていない現状は淋しい限りである。
SF同人誌には、ほかに『宇宙気流』『アステロイト』『宇宙船』『パラノイア』などがあるが、いずれ機会を改めて触れることにしたい。なおこのほど『宇宙塵』国際版(英文)が刊行されたことをご紹介しておく。柴野拓美のSF大会報告などがのっておりおそらく海外のマニアをウナらせることだろう。
主旨は筒井氏の作品の批評なのですが、当時のSF界の状況をうかがい知ることのできる資料としても面白いと思います。ではでは。
PR
COMMENT
良いお年を
今年もあと僅かとなりました。今年、このサイトに出会えて、本当に良かったです。
来年もまた、SFを熱く語り合いましょう!
では、良いお年をお迎え下さい。
謹賀新年
今年もどうか、宜しくお願いします。
Re:謹賀新年
今年もSFがたくさん読める年でありますように。