不意に部屋に侵入してきたTVピープル。詩を読むようにひとりごとを言う若者。男にとても犯されやすいという特性をもつ美しい女性建築家。17日間一睡もできず、さらに目が冴えている女。―それぞれが謎をかけてくるような、怖くて、奇妙な世界をつくりだす。作家の新しい到達点を示す、魅惑にみちた六つの短篇。
短編集。収録作は「TVピープル」「飛行機」「我らの時代のフォークロア」「加納クレタ」「ゾンビ」「眠り」の6作。
ぼんやりと形にはならない不安。或いは欺瞞。自分が無意識の世界では悟っているのに、形にしては受け取りたくないもの。
そういったことを読んでいて意識していた。僕にとってはホラーの感覚で受け取れる世界。頭の中にスルスルと入ってくる文体だけに、余計にいろいろと考えることが多い。とにかく1つの話の1つの部品で、さまざまな想念が渦巻いてくるというのは、この人の作品でしか味わえない気がする。
以前にも考えたけれど、奇妙なできごとを自然に受け取れるというのは、いかに世界を構築するのがうまいかとか、そのための語り口の巧妙さ、作品を書く技量のすごさだと感じるのです。
奇妙に小さな人間が僕の家にTVを置いていく話。ステレオタイプの優等生に起こる処女性の問題。犯されやすい女の物語。無意識の独り言を知る物語。ループする夢の中にいる女。眠れなくて夜な夜な徘徊する女の物語。すべてが幻想的で切なくて、怖い。
特に日常の瓦解を描く「TVピープル」「眠り」のラストは心が寒々としてくる。でも、読んでいる最中、読んだ後、僕の心は癒されている。不思議だけれど。
不思議でちょっと怖い、すてきな本でした。