古来、私たちは未知のものへの恐れを、物語に託し、語り伝えてきた。日常の向こう側に広がる「異界」では、陰陽師・安倍晴明が悪霊たちと戦い、狐は美女に姿を変え、時期の流れさえ歪む。源義経の「虎の巻」、大江山の鬼退治伝説、浦嶋太郎の龍宮伝説、俵藤太伝説、七夕伝説…。いまも語り継がれる絵巻に描かれた異界物語を読み解きながら、日本人の隠された精神性に迫る。妖怪研究の第一人者による「異界論」の決定版。(角川ソフィア文庫:紹介文より)
人造人間はなにも西洋のゴーレムの専売特許ではない。
反魂の術というものが東洋にはある。「撰集抄」では西行が死体の寄せ集めから人間を造ろうとして、レシピを間違えて失敗したという話です。
そのような不思議な話がたくさん紹介してあるすてきな本です。
「酒呑童子」の話には前々から興味があって、ぜひぜひ読んでみたい。猟奇的事件を扱った話であり、怪物退治譚ともなっており、きっと面白いはずだ。大スター安部清明も登場するし。
ただ、ここにも『妖精学入門』で書かれていたような、「土着の神が宗教勢力によって弱体化していく」という構図が見えて、洋の東西を問わず同じ動きがあって興味深い。
本文中に、「王権はそおれを維持するために、絶えず「異界」を周辺部に作り出し、そこから立ち現れる妖怪を退治し続ける必要があった」「この構図は現代でも変わっていない」という言葉があり、深く感銘を受けた。いろいろと昨今のニュースを考え合わせると深くうなずけるところだ。
ほかにも「七夕伝説」で蔓で宇宙まで行っちゃう(「ジャックと豆の木」を思い起こさせる)話だとか、日本版「ガリバー旅行記」である「御曹子島渡」もすごく面白そう。後者は挿画が強烈で、人面馬はほんとうに気味が悪い。
妖怪というものは、社会の抱くコンプレックスや罪悪(闇)にすみついているようです。
現代の「異界」を描くSF・ファンタジー・劇画・アニメーション作家たちに、それらを奥深く享受させていただきくときに、どのような伝統や背景からそれが生み出されてきたのか読み解くうえでたいへん参考になる書だと思いました。
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