美貌の生化学者ダイアナは偶然から、ある地衣が生物に及ぼす効果を発見する。それは、人類の社会を根本から揺るがしてしまうほどの大事件だった。先にそれを発見していたダア・ハウス開発研究所のフランシスと合わせて、彼女もまた、発表を見合わせた。彼と彼女がそれぞれに発見したのは、人間の老化をおくれさせる抗生物質に近いものだったのだ・・・・・・。
いやあ、面白かったデス。
ウインダムの描く女性の理想像が、著しく表れた作品なのでしょう。「家庭の従属物」である主婦になるのを嫌い、女性の真の自立をめざすダイアナという女性には、男性が抱いている女性への罪業みたいなのが見えますね。『トリフィド』のほうでも、似たような言及がありましたが、ステロタイプな主婦がウインダムは嫌いなようです。
今回は、フェミニズム運動と人間の寿命延長の問題という二つが絡んでいます。「人間の慣習や価値観など、事件や時代の趨勢などのバックグラウンドによっていくらでも変わる」というのが、いつもウインダムの織り込んでいる主張ですかね。ここにも、現存社会に大きな事件を放り込んでかき回すという一種思考実験のようなものが行われています。そこが、ウインダムの一番の魅力かなあ、と。
ウインダムの主人公、あるいは登場人物は、常に「私」という個人的な裁量を超えて、人類への奉仕を行っているように感じます。もちろん、ダイアナにも個人的な自己実現の夢もなくはない。そして、個人的な周囲で起こる事象はウインダムの小説の中ではけっこうかなうことが多い。『呪われた村』での夫婦が実際は、「悲劇」から免れているところや、『トリフィド』の登場人物が、「悲劇」ではなにも失わず、逆にそこから恋人や家族を得ていくところなど、ある種、距離を置いた場所で眺めている主人公という状態が、読者には心地いいところがあるのかなあ。巧妙に責任逃れできているんですよねえ。そこが、巧い。
ダイアナが起業した会社の組織の働きなんかも、非常に面白かった。さまざまな方面に及ぶ影響の描き方などの、社会的なテーマが非常に面白い作品であり、また他作品にはないユーモアもあったりして、とっても楽しめました。
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