会社では上司に罵られ、家に帰れば妻がヒステリックにわめき散らす。そんな平凡な毎日を送っていたベンは、突然別世界へ―――新聞スタンドでもらったつり銭の中に魔法のコインが混じっていたのだ。街並や人びとはいつもと変らないのに、彼はいつのまにやら有能な社員、おまけに家では、妻だと名のる見知らぬ美女が彼の帰りを待っていた。何もかもが素晴らしいこの別世界で、ベンは今度こそ幸運をつかめると思ったが・・・・・・?〈ノスタルジックなもの〉と〈幻想世界〉を、執拗に書きつづけるファンタジイ界の巨匠が、人生の哀歓をユーモラスに綴る!
うーん、微妙。
『ゲイルズバーグの春を愛す』収録の「コイン・コレクション」が元になった作品でしょうか。まあ、好きな型の話なのですが、主人公の行動がちょっと不快で、そこまで楽しめません。短篇ならまだ我慢できたのですが、長篇となると嫌な部分も増えてきますね。
典型的なパラレル・ワールドものですが、あまりにも願望がストレートに出すぎているために、あんた本当にそれでいいのか?と激しく突っ込みを入れたくなります。現在の妻に代わる新しい美人の妻を手に入れる主人公。しかし、元の世界の妻が他の男とイチャイチャしているとみれば、その男に嫌がらせを繰り返します。なんて、嫌なやつなんだ、コイツは。さらに、また別の世界で妻が自分と離婚し、他の男と付き合っているのを知っていながら、妻を付け回し、人の手紙を勝手に開封し嫌がらせ(もう、これはユーモアの部類には入らない)に書き換えたりと、
ストーカー行為に走ります。読んでいてものすごく不快でした。この男は夢みがちな男ではなく、単純に自分勝手なだけだと思います。相手が悪人であるとわかった後でも、それは偶々のことで、許される行為ではありません。まあ、この時代には許された範疇なのかもしれないのですが。
別世界で成功をおさめる主人公の姿も、なんだか高校生か中学生の妄想願望のように思えて、そこまで楽しめませんでした。自分がその年代なら楽しめたかもしれませんがねえ。短篇ならしばしの夢を見たようなほのぼのした雰囲気になれるのですが、あまりの現実否定に僕はついていけませんでした。
いい部分をあげますと、ニューヨークが路面電車や旧跡を残していたりするいつものノスタルジーと、現実世界ではスーパースターである役者(オードリ・ヘプバーンなど)が普通に商店で働いていたりするところでしょうか。『愛の手紙』を長編にしたものもあるようですが、こちらは期待できそうです。
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