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SF読むぜよ(108) ジョン・ウインダム『トリフィドの日』

 地球が緑色の大流星群の中を通過し、翌朝、流星を見た者は一人残らず視力を失ってしまう。狂乱と混沌が全世界を覆った。今や流星を見なかったわずかな人々だけが文明の担い手だった。しかも折も折、植物油採取のために栽培されていたトリフィドという三本足の動く植物が野放しになり、人類を襲いはじめたのだ! 人類破滅SFの名作。

 素晴らしい。

 ヴェルヌやデフォーの『ロビンソン漂流記』を読むような抑えた文学的な筆致。それが物語に上品さを加える効果となり、いわゆる見世物的なSFではない、知的な世界が展開している。解説にもあったように、これは一般小説としても通用するなあ。

 主人公は語り手にふさわしく、分析的な批評眼を持った人物で、彼がとる行動も非常に理知的であり、必然性が感じられるので、説得力がある。ウインダムのすごいところは、どんなにそれが異常な状況であろうと、自分がそこにいるような臨場感、リアリティがだせるところだと思います。実力派の作家さんだ!

 思考実験的なSFであり、①人間が頼っている視力がなくなるとどうなるか?②そこで、人間よりサバイバルするのに優勢な種が現われたらどうなるか?という二つの異常状況から、人間という種を浮かび上がらせようとしています。ラスト以降の人類の盛衰がどうなるかは読み取れませんが、生き残るために精一杯やることが、ともかくも大事だ、というようなことは感じました。うん、がんばろう。

 トリフィドという、食肉植物が登場するのですが・・・・・・。頭の中でその姿を想像すると・・・・・・か、かわいいじゃないか!三本の根を使って、ひょこひょこ行進し、ゆらゆらと常に揺れている。襲ってこなければ、ぜひ、庭の片隅に繋いで置いておきたいなあ。しかし、題では『トリフィド』となっていますが、どちらかというと、トリフィドよりは、人類のほとんどが盲目になってしまうことに重点がおかれているような気はしましたが。

 作者が知的なせいなのか、登場人物にもそんなに獣的なやつはいないし、ほかの作品とくらべるとほのぼのとした感じがします。こんなに理性的なやつばかりだったら、苦労しないだろうと思っちゃいますが。でも、そのほのぼの具合が、逆にいい感じだったりするんですよねえ。

 今、『地衣騒動』を読んでいるのですが、こちらも実に面白く、夢中です。ウインダムは実に肌に合う作家でありますし、解説にストーリーが描かれている『海竜めざめる』や『さなぎ』なんかも、シチュエーションがすごく面白そうなので早く手に入れて読んでみたいです。
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