1981年、一組の夫婦が火星へ出発した。直後に核戦争が勃発、地球を回る衛星と化した植民ロケットからの放送のみが、人びとの情報のよりどころとなった。各地に点在するコミュニティーのひとつでは、かつて核実験に失敗し人びとの憎しみを集める物理学者、超能力をもつ肢体不自由者の修理工、双子の弟を体内に宿す少女らが暮らしていた。ディック中期の異色作。
面白い!けど、暗いです。
核戦争後の人々の生活を描いたくらーい小説。不倫しまくりの美女、なにかをもくろんでいる身体障害者の修理工、ミュータントになった女の子、略奪をたくらむコミュニティ・・・・・・。特にスペクタクルな部分もなく、淡々と幾人かの人物を同時進行で描写していき、最終的になんとなく終わってしまったような感じ。
おそらく核戦争の恐怖を陰鬱に描くことで達成しようとしていたのでしょうが、また甘いラストでそれが不首尾に終わっているような気がしました。最後に前向きに持っていく小説は好きですが、ちょっと唐突過ぎたし、それまでの行動が行動だけにねえ・・・・・・。
好きな部分で言うと、地球の衛星軌道に乗った男が、妻亡き後、ラジオで放送を続けているところとか、双子の弟を体内に宿す少女、そして、その弟の行動が面白い。喋るミュータント犬も好きです。「かねもってないからな~~~」
しかし、核戦争の恐怖を描くにしても、被爆国の人間からしてみると、かなり甘い部分が見えてしまうのですが。少なくとも中沢哲の『はだしのゲン』を読んでトラウマになってしまった人間からしてみれば、あれくらいやってもらわないと核兵器廃絶にはつながらんのじゃないかと心配。連鎖的に核保有国が増加していく中、被爆国としてわが国がとらなければいけない方針を政府にはびしっと示していただきたい。
まあ、なにはともあれ、ディックの正義感が仄見える作品であると思います。
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