「憧れて小説家になったのではない。それ以外、道は残されてなかった」
製薬会社の御曹司、終生つきまとう「負の遺産」、創作の舞台裏、生き残りをかけた戦い・・・・・・。知られざる生涯をたどる、ノンフィクション大作
残酷物語。
ファンにとっては辛い、特にSFファンには辛い物語でしょう。筒井さんが最近のインタビューで、SF内部の人には書けないと語られていたのですが、そのわけがよーくわかりました。
負債にまみれた星製薬でのできごと、ショートショートを文学と認めてもらえない苛立ち、最盛期を越えてからの自らの作家としての行き方への迷い・・・・・・。本人の作風と百八十度違ってドロドロとしたものが渦まいているのである。だからこそ、星新一の小説世界が好きな人にとって、このノンフィクションが描き出す世界はあまりにも「現実」しすぎている。Too much pain――痛すぎるのだ。
星新一の取り巻かれている状況だけでなくて、日本SF内部の事情もそうである。福島正実氏の若手作家へに対する態度、批判に対する叛乱など、SF内部のどろどろとした内情が淡々と描かれているのがSFファンにとっては実に痛い。
そして、自分に対する痛さもある。星新一はやはりどこかで、小中学生が読む作家という認識があったのは確かだ。そして、最近、「SFマガジン」で星作品を読むときに、年齢を経てこそこの価値がわかるのではないかとようやく思い当たっていた。僕も星新一は子供向けの作家というイメージにのっかていたのか、と。
その星新一が後年には若い読者層に慰めを見出していくことが、僕にはなんだか哀しく思われた。
まさに力作といっていい作品で、関係者への取材や、さまざまな資料の駆使によって、星新一という人間を浮かび上がらせたノンフィクション。切々と胸に訴えかける事実の塊が、心に突き刺さる素晴らしい一冊だと思います。
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