ある日突然どういうわけか地球の重力が強くなり、そこへまた緑死病なる奇病まで現れ出でて世界は無秩序、大混乱! アメリカ合衆国もいまや群雄割拠の観を呈し、ミシガン国王やオクラホマ公爵が勝手邦題にいばり返っている始末。そしてジャングルと化したマンハッタンのエンパイア・ステート・ビルの廃墟では、史上最後にして最も長身の合衆国大統領が手記を書きつづっている――愚かしくもけなげな人間たちが演ずるドタバタ喜劇、スラップスティックの顛末を……。現代アメリカで最も人気の高いカート・ヴォネガットが、鮮やかに描き出す涙と笑いに満ちた傑作長篇。
去年、『猫のゆりかご』を読んで、一時ヴォネガットにはまった時期がありました。久しぶりにヴォネガットを読んで、その面白さにびっくりしてしまいました。ヴォネガットの作品はキルゴア・トラウトというSF作家の登場はあるものの、普通小説であることが多いので、こういったSF作品を読めるのは嬉しい(今、ウィキペディアで見て知ったのですが、シオドア・スタージョンがモデルなのだそうです。へえ~)。
人生をドタバタ喜劇になぞらえたこの作品は、ゲラゲラ笑いながら読めますが、その奥にひそんでいる悲しみや、愛の深さに、心の底のほうにぽっと暖かな灯が点ったようなそんな気分にしてくれます。
人工的な拡大家族という発想といい、人口過多のため、体を小さくしてしまった中国人たちといい、重力が強くなったり弱くなったりすることといい、そういったSF的な奇想も、まったく自然に物語の中に溶け込んでいて、ヴォネガットの小説というひとつの世界観を完璧なまでに作り上げています。
ユーモア溢れる文章で韜晦しながらも、ヴォネガットの問題意識、生真面目さが伝わってきて、涙があふれそうになる。素晴らしい作品です。
ヴォネガットはあと数冊積読になっているものがあるので、さっそく残りも読んでみます。
PR
COMMENT