なんとなく短篇編。
井上ひさし『握手』
読み終わった後、数秒間呆けてしまった。真に感動を与えてくれるものに出会うと僕はそんな反応を示します。このお話はある孤児院の修道士のお話で、とても短いのですが、その感動度は限りなく大きいです。懐疑主義の現代人にとって、信仰はどうあるべきか。少なくとも僕はルロイ修道士のようでありたい。今、その信ずべきものを探しているところですけどね。講談社文庫『ナイン』所収。表題作「ナイン」も好きです。
大原まり子『書くと癒される』
題名を本文に直接つなげる、という技巧的な面から、最後の一行までほんとうに愛おしく読めました。大原まり子の新刊が読める、という期待感を裏切らないすてきな作品でした。大原さんの小説で好きなのはときどきハッとするような真実で読者を切り裂くような問いかけがあるところです。僕が好きなのは次のくだり。
「自分を変えるか、それとも滅びるか。滅びるのは間違いなく自分の方で、世界の側ではない。自分が滅びたのちも世界は何食わぬ顔をして生き延びるのだと腑に落ちた。」
そして、大原まり子の小説は時代を写し取っている。宇多田ヒカルや「ベルセルク」・・・・・・それらの単語が未来で古びないことは、同じく大好きな「処女少女マンガ家の念力」が証明している。それらも小説世界の一員として、しっかり自己主張しているのが好きだ。同じく「有楽町のカフェーで」も友人を待つ喫茶店で過ごすお話なのだが、そこには生き生きとした「世界」が描かれていて、ひとつのユートピアを形作っていると思います。そして、そうしたユートピアが描かれていればいるほど、それが崩れ去ることが悲しく、過去が愛おしい。「薄幸の町で」にはほんとうに泣かされました。精神的に不安定なパートナー、自由業(フリーターは自由業でしょうか?)の語り手など、「書くと~」とは様々な共通点があると思います。「書くと癒される」は光文社文庫『超・恋・愛』に、「有楽町のカフェーで」「薄幸の町で」はハヤカワ文庫JA『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』に収録。
景山民夫『チキンレース』
オンボロのシトロエン2CVでバカな若者のスカ・G・Bとチキンレース。車のことは全然わかりませんが、やっぱり弱いもの、不利なものが、頭や技術を使って勝つというお話が僕は大好きなんで。判官びいきここに極まれり。判官びいきは現実にむくわれることはその構造上少ないので、こういった物語は超興奮します。車は楽しく乗ろう。講談社文庫『休暇の土地』収録。
江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』
最初の方の自分に似た人間が・・・・・・もいいですが、やはり改造した島での耽美的な世界がもうなんともいえずに素晴らしい。特に海中の通路です。しかも人魚を泳がせる!美の地獄という感じで、もう、なんというか、うーん、たまらん!という感じ。鼻息荒く最後まで読み進みました。乱歩はほかに「陰獣」とか、「屋根裏の散歩者」とか、「心理試験」とか、すごいものが多すぎます。
森奈津子『悶絶!バナナワニ園!』
最初に森奈津子を読んだのは、たしか百合小説のアンソロジー、『カサブランカ革命』だった。大原まり子の小説が読みたくて購入したのですが、その前にこの小説にやられてしまった。「なんじゃ、こりゃー!」という衝撃がありました。『SFバカ本』に寄稿している人も何人か書いていたような気がします。とにかく、下ネタで笑うということがたまらなく好きな人にはオススメですね。こういうのを笑えるのはなかなか精神的にリベラルでなければできないことだと思いますので。ハヤカワ文庫JA『西城秀樹のおかげです』に収録。
志賀直哉『城の崎にて』
小説の神様、変な小説の次にすみません。とにかく、文学の読み方なんてわからなかった僕にこの小説の面白さを教えてくれた国語の先生ありがとう!いくつか出てくる虫や動物の生と死、それに自分を重ね合わせて観る志賀の淡々とした文章と視線に、人生のはかなさとか、そんなものが身内を襲ってくるのです。何回も読み直しているのですが、読むたびにしみじみ。ただ、志賀の小説はどれも味が薄いです。
梶井基次郎『檸檬』
ときどき、心が死にます。何も感じなくなるときがあって、楽しい本もマンガも音楽も、僕になんの効果ももたらさないことがあります。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」きっと、そんな気分を表した文章なのでしょう。妙に上品ぶっているものが憎くて、自分がなにかに疎外されているような気分になる。そんなものへの復讐として、檸檬を丸善に置いてきた梶井の気持ちが僕にはよくわかる。
丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛て来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう。私はこの想像を熱心に追及した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」
この一文が僕にもなんとも爽快で、微笑ましく思えて、梶井にシンクロしてしょうがない。
アラン・シリトー『長距離走者の孤独』
なんだか夢中になって読んだ覚えがあります。僕も中学生のときは陸上部長距離だったので。反逆精神の塊の少年の話なんですが、やっぱりゴール手前のシーンがなんともいえず、それを象徴しているシーンで、大好きです。ただ、ほかの作品がシーンは浮かぶけれど、どんな話だったのか、大筋が思い出せない。ほかのもまた読み返してみよう。新潮文庫『長距離走者の孤独』に収録。
筒井康隆『バブリング創世記』
筒井康隆の恐ろしさを思い知った作品。読んでない方は一読をオススメします。驚愕。『フル・ネルソン』『上下左右』『デマ』『読者罵倒』などなど、ものすごい作品がちょっと思い浮かべただけでも目白押し。読むべし。
ハーラン・エリスン『「悔い改めよハーレクィン!」とチクタクマンはいった』
過激な物語というやつが好きで、反逆的で下品であればもっと好き。ハーラン・エリスンは好きな作品をたくさん書いてくれている。でも、実際に社会生活でこういう人には会いたくないような気もする。現代批判とかそういう建前的なものじゃなくて、自分の好きで信じたことをこの人は書いているような気がする。勝手な幻想かもしれませんが。とにかく好き。
挙げればきりがなくなるのでこのへんで。内容は覚えているものの、題名を忘れているものがけっこうあります。こう書いていくと、読書傾向がバラバラですなあ。指向性がまったく感じられませんね。
次はミステリ編か、随筆編になるでしょう。その後で映画とか漫画とかに入っていくと思います。
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