本日は
佐々木倫子『Heaven?』。1999-2003『週刊ビッグスピリッツ』連載。
フランス料理店で働いていた伊賀観は「
この世の果て」という意味を持つ『ロワン・ディシー』という名前の同業店に引き抜かれる。しかし、
窓からお墓が見える立地、行く先々の店を潰すというジンクスを持つシェフ、元牛丼屋店長の店長、資格が取りたいがために店にいるソムリエ、動物的勘をもつ元美容師のど素人青年という人員たち。そして、なによりそこにはやりたい放題のオーナーがいた・・・・・・。
佐々木倫子らしく、綿密な取材により舞台背景が完璧に出来上がっていて、物語に入り込むことができ、「神は細部に宿る」という言葉を思い起こさせます。
フランス料理店が舞台ですが、持っているイメージほど堅苦しい雰囲気にさせないのは
フレンチの空気をぶち壊してくれるオーナーがいるからです。
常に店のカウンターに陣取り、
満席でも客に席を譲らない。思いつきで経営方針を決定し、その時の気分でメニューは変わる。自分の思うがままに本能のまま突き進む黒須仮名子オーナーはある意味では僕の理想の人物です。
対して主人公伊賀観はけっして怒らない受動的な人間。常に冷静沈着、感情の起伏も発露もなく、愛想笑いすらできない青年。母親やオーナーや河合君などのトラブル・メイカーに振り回されながらもけっして感情を乱さないその所作は見習いたいものです。
このマンガはこの二人を通して「
理想の職場」とはどういったものかを追求したのではないかと思います。自分のやりたいことをやりたいように我を通すオーナーと来てくれるお客さんたちに気を使い、満足してもらおうとする店員達。普通は立場の下の人間がやりたいことを通そうとし、上がそれを統制するというはずなのですが、この逆の構造が逆にそのせめぎ合いを浮かび上がらせていて訴えかけてくるのだと思います。
黒須オーナーの傍若無人な振る舞いはよく見知った家族にみせるような(それが初対面からというのが問題ですが)もので、実は店内がけっこうアット・ホームに見えてしまう。それは「怒り」という武器で他人に生の感情をぶつける黒須オーナーがむりやり他人の心の中に踏み込んでいくからなのでしょう。他人との「距離感」、境界線をきっちり引いている伊賀君やみんながなぜ「ロワン・ディシー」に居ついてしまったのか。それはオーナーの(ある意味での)人徳によるものもあったのではないでしょうか。
メチャクチャな職場のはずなのですが、なぜだか彼らが羨ましくなってしまう、そんなお仕事マンガです。
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