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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

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SF読もうぜ(288) 星新一『ブランコのむこうで』

 ある日、学校の帰り道に、もうひとりのぼくに出会った。鏡のむこうから抜け出てきたようなぼくにそっくりの顔。信じてもらえるかな。ぼくは目に見えない糸で引っぱられるように男の子のあとをつけていった。その子は長いこと歩いたあげく知らない家に入っていったんだ。そこでぼくも続いて中に入ろうとしたら・・・・・・。少年の愉快で、不思議で、すばらしい冒険を描く長編ファンタジー。

 なんだか懐かしい匂いがする物語。

 学校の帰り道に出会った自分とそっくりの男の子。ドッペルゲンガーを見たときのドキドキする気持と、逢魔ヶ時の不安感がまざりあって、小学生の時分の帰り道に重なり、とても不安定な気分になりました。

 夢の世界に入った「ぼく」はさまざまな人の夢の中で行動していきます。夢は現実の人間の精神を救う場所であるということが前提としてあり、「ぼく」は夢の中で逆に現実の人間を学んでいくことになります。特に子どもを交通事故で失った化粧品販売員の対人的な朗らかさと、内的世界のギャップを描いた部分が印象に残りました。「表面はほがらかだからといって、心の底までそうとは限らないんだなと、ぼくは思った。」僕たちはもっと他人に対して、想像力を働かせないといけない。

 他人という存在も自分と同じように、豊かな内的世界をもっているのだ。そこには悩みや悦びや屈折やその他いろいろのことがあるんだ、という子どもに向けての真摯なメッセージが込められていると思います。そして、物語の送り手としての星新一は第八章の「道」に現れてきます。与えられた大理石を彫り続けている一人の老人。理想的な世界を彫刻しようと思い、石を何度も何度もつくりなおしていくうちに、石はどんどん小さくなっていく。やがて、そのテーマは女や竜に移っていくが、石が小さくなりすぎたために、テーマには大きさというものが非常に重要になってくることに気がつく。最後に老人はその石を、人がつまずかないために道の窪みにはめようとする・・・・・・。
 ショートショートといういろいろなものを削ぎとっていく小説形式に、僕はこの大理石の石を重ねて読みました。やがて、子どもたちのためにショートショートの存在を重要視していく星新一が、道の窪みにはめる石として自身の作品を意識しているのではないかと勝手な想像を働かせました。

 もう一つ、夢=虚構として、物語の作用を考えることが、この小説から感じ取ったことです。虚構は人の無意識を掬い、そして救うことができるというふうに星新一は考えていたのでしょう。読んだあとで心に残るものがあるすばらしい作品でした。
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