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SF読もうぜ(306) 中島らも『ガダラの豚』

アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民俗学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す!」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが・・・。
 



 ハマる。

 全三巻の長篇なのですが、一気に読み終えました。

 第一部は超能力やオカルトに対して懐疑的な視点からインチキを次々に暴くということが行われていきます。マスコミによる超能力・オカルト報道が頂点に達していた時期の作品なのでしょうか、あれは僕が小学生くらいのときだったかなあ。ただし、一番初めのところで、密教の高僧が護摩行の際に見た「大黒様」の姿によって伏線が張られ、今後の展開を予感させるような禍々しさを最後に見せてくれます。
 第一部の見所はやはり、新興宗教の教祖の空中浮遊や刀の上を歩いてみせるなどのトリック暴きにあり、宗教というシステムの巧みさ、人の心の弱さを突く危険性、そのあたりに魅力を感じます。そうしたものが確固とした口調で語られるからこそ、「呪いは実在する」という主人公大生部の主張に読者はひっかかりを持つのです。はたして呪いは実在するや否や・・・・・・?

 第二部は一転してテレビ局の取材に主人公の大生部一家が旅立つところから始まります。ここではなんといっても、アフリカという土地の持つ土俗信仰や地域性が面白い。そして、もう一つ、日本人の持つアフリカに対するイメージのなんと貧困なことか、ということ。
 アフリカ人の中にある呪術へのイメージの日本との違いにうなずき、呪術医(ウィッチドクター)の存在に驚く。呪いというものがこんなに生活に根付いているのかと感じます。もちろん小説ですから、どこまでが事実なのかはわからないのですが。おめあての数字の「13」を意味する村についてからは、ラスボスの登場でさらに物語展開はヒートアップ。科学と呪術の両方を兼ね備えたバキリという存在。バキリのキジーツでありながら、8年前に死んでいたと思われる志織を奪還しての逃避行、吊橋や荒野での攻防、村長とバキリの呪術合戦などを経て、ついに日本への帰還。第三部へ。

 第三部はついに超能力合戦へ。アフリカでのテレビクルーの死に続き、死ぬわ死ぬわ関係者が主要登場人物も含めて次々と死んでいく。ここに来てようやく読者は「呪いは実在する」と確信する。そうして、いよいよ日本へやってきたバキリたちとの直接対決。それも、テレビ番組での直接討論という形へ!
 テレビ局での「狩り」の始まり。物語は狂乱の宴へと突入する。明かされるバキリの目的、再登場の密教の高僧、最後のどんでん返し・・・・・・スピーディーに展開する物語にページを繰る手が止まらない。

 第一級の推理小説であり(日本推理協会賞を受賞している)、サスペンス小説であり、オカルト小説であり、アクション小説であり、そしてSFでもある。ごった煮の面白さ。さらに薬物小説・アルコール中毒小説でもあるところが、中島らもらしいなあと『今夜、すべてのバーで』以来中島らもを読む身としては思いました。

 頭から尻尾の先まで怪しさに満ちた面白さでした。
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