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SF読もうぜ(312) ロバート・J・ソウヤー『ホミニッド―原人―』

クロマニヨンが絶滅し、かわりにネアンデルタールが進化した世界で、量子コンピュータの実験をしていた物理学者ポンターは、不慮の事故でいずこかへと転送させられてしまった。一方、カナダの地下の研究所で実験を行なっていたルイーズは、自分の目を疑った。密閉した重水タンクのなかに異形の人物がいきなり出現したのだ!並行宇宙に転送されたネアンデルタールの物理学者の驚くべき冒険とは…?ヒューゴー賞受賞作。

 最近、なんとなくはまってしまったソウヤーの作品です。

 ジャンルとしては並行宇宙ものとなるのでしょうが、向こうにいるのはネアンデルタールの進化した人類さんだったというもうそれだけで魅力的な設定の世界でした。

 ネアンデルタール人の進化した社会の様子は、せせこましいところに大勢住んでいる我々の世界と違って、我々にはない技術が進化している。平和が維持されている彼らの世界では戦争はなく、人々はおだやかで科学的思考を持つ彼らは宗教をもたない。代わりになにが彼らの倫理を遂行させているかというと、腕に埋め込まれたコンパニオン・インプラントによって記録された「アリバイ履歴」によって、常に自分の行為に責任を持たなければならないという意識。そして、告発された人物は子孫を残せないよう去勢することで罰せられる。

 並行宇宙ものはあり得たもう一つの宇宙を見せることで、我々の世界の問題点を浮彫りにしてくれる。この作品もそういった形で、我々の世界の問題点、特に戦争や暴力、環境破壊などについての批判がなされている。それは著者がカナダ人であって、隣国アメリカの存在がそれをさらに考えさせているのではないかという指摘が解説にはなされてあって、なるほどと思いました。

 さて、この物語ではネアンデルタールの世界でのポンターの男性配偶者(これもすごい響きですが)であるアディカーが、並行宇宙へ消えてしまった(向こうの世界では失踪扱いの)ポンターを殺害した容疑で告発されてしまいます。この法廷でのやりとりの面白さが一つ。
 そして、我らクロマニヨンの世界ではメアリー・ヴォーンという科学者がレイプの被害を受け、そこからいかに立ち直ろうとするかという心の傷の回復の物語になっています。ここで、またソウヤーの小説に登場する男女関係問題がサブテーマの一つになっていて、「らしいなあ」と思ってしまいました。

 いろんなテーマの盛り込まれた楽しい作品です。ラストではちょっとさびしくなってしまいましたが、続編もありまして、こちらもよかった。ヒューゴー賞受賞も納得の作品でした。

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