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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

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SF読もうぜ(326) フレドリック・ブラウン『天の光はすべて星』

a59f8724.jpeg 1997年、人類は星々に対する情熱を失い、宇宙開発計画は長い中断の時期に入っていた。星にとり憑かれた57歳のもと宇宙飛行士マックス・アンドルーズは、そんな世界で無為の日々を過ごしていた。しかし、木星探査計画を公約に立候補した女性上院議員候補の存在を知ったとき、彼の人生の歯車は再び動き始める。もう一度、宇宙へ―老境に差しかかりつつも夢のために奮闘する男を、奇才ブラウンが情感豊かに描く古典的名作。
 

 熱いぜ!

 
主人公は五十七才の男マックス・アンドルーズ。宇宙への情熱を諦めきれない、いや、まだ情熱旺盛な元宇宙飛行士。
 時は1997年。上院議員に立候補した女性候補エレン・ギャラハーは木星探査計画を公約にたてた(というより、お付きの学者が漏らしてしまったため表面化した)。それをききつけた主人公は、カリフォルニアに急遽向かい、住民票を移して何票も投じようと画策したり(不正投票です)、犯罪をも厭わぬ覚悟でエレン・ギャラハーを当選させようとします。ついには相手方の事務所に忍び込み、不正な帳簿を盗んでギャラハーの事務所に届け出ます。犯罪スレスレではなくて、犯罪を犯してまでこの男がここまでするのは、もちろん宇宙への情熱のためなのです!

 こうしてギャラハーと面会を果たし(なんと当選が決まったあと事故でギャラハーは大怪我を負ってしまうのですが)、宇宙開発計画の中枢へと食い込んでいく主人公。博士号をとるために日夜勉学に励み、管理職経験がないといわれれば、昔の友人を頼ってロケット空港の空港長への道を邁進。さらには宇宙計画のコスト面にも言及。ロケットの計画を練り直し、費用を十分の一にまで減らしてみせます。これら主人公の働く姿に僕の思い浮かべた二文字は、とうに死語となってしまった二文字「猛烈」なのでした。オー・モーレツ!

 ところが議員のエレンともいい仲になり、木星探査計画の副主任になるという矢先にすべての歯車が狂い始めます。妻のエレンの死、そして、自らの大言壮語のせいで経歴詐称となり、すべての話はおじゃんになってしまうのです。
 計画の最後には宇宙船を奪ってでも宇宙へと飛び立とうとまで考えていた宇宙狂いの男の夢はもう一歩のところでガラガラと音をたてて崩れ落ちてしまいました。読んでいて頭にガーンとなにかをくらった気分になりました。

 男の四年に渡る苦闘は終わりを告げ、2001年。61才になった男はフェンスの外から自らが設計したロケットが飛び立つ様子を見つめている。人類の未来に惑星間飛行が当たり前になった世界を夢想しながら。そして、亡くなったエレンに話しかけながら・・・・・・。この切ないラスト、はかりしれないほどのやりきれなさ・・・・・・。

 そして、ふと現実に帰る。2012年になっても、まだ人類は地球の周辺をウロチョロしている。この物語では原子力エンジンが1960年代には完成しているのに!木製探査計画だって物語の中では有人なのだ。なにせ、僕たちは想像力だけが先走り過ぎて、じれったいのだ。宇宙にいくら憧れたって、そこへ誰もが行くことができる時代が僕が生きている間にくるのか?日々のニュースを見る限り、来そうな気もするし、来なさそうな気もする。
 この物語は実在の宇宙計画と寄り添いながら生まれでてきたSF小説だ。手が届きそうで届かないところに真の憧れはある。木星に指がかかるところまでいきながらも、それを取り損なってしまったところに、この小説のすごさはある。すごさはあるのがわかるけれども・・・・・・。

 わかっちゃいるけどやりきれないんだよなあ。

 ・・・・・・というふうにいつまでも余韻があとを引きに引く傑作なのでした。
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