カリフォルニア州に建造された巨大陽子ビーム偏向装置が突如暴走事故を起こし、八人の男女がまきぞえとなった。その一人、ジャック・ハミルトンは、ほどなく病院で意識を取り戻す。身体には何の異状もなかった。だが・・・・・・そこは彼が知っている現実世界とは違った、奇怪な宗教に支配される世界だったのだ。八人はもとの世界に帰る方法を探り始めるが・・・・・・!?高名な傑作初期長編。
いやー、面白いっすわー。こういうテーマは好きですねえ。
『脱走と追跡のサンバ』の内宇宙の世界みたいです。共産党が迫害視されていた時代に、ディックもよくこんなものを書きましたねえ。第二バーブ教が、アメリカ人の共産党への偏見に満ちた思い込みに置き換えられていて、心に深く感じるものがあります。
ディックの作品は、迫害視されている人物に対する深い同情が感じられます。きっと、ディックは自分のことも、世間にそぐわないはみだしものだと思っていたのでしょうね。体制的なものへの反発も、そのあたりからでてきているのでしょうか。
一番好きなシーンは傘でびゅーんと飛んでいくところ。『となりのトトロ』みたいでいいです。そんな、のんきなシーンではありませんが。一番怖かったのは家が、生き物になるやつですね。これは筒井康隆の『二元論の家』を連想しました。
世の中は人間どうしの偏見や、理想のぶつかり合いでできているのだなあ、と思いました。その中で、自分の意見だけに固執し、他人を理解する努力をしようとしないやつが、やっぱり一番の悪であるなあ、と。
アメリカSFの中では、彼も特異な存在なのでしょうね。こういうのがペーパーバックで販売されていたのか、と。ディックはエンターテイメントに徹した作品も、非常に面白いのだけれども、こういう彼の主義主張というか、苦悩を提出した作品のほうが、やはり、格別ですね。
と、いうわけで、今年最後の更新でした。本ブログ初めての年越しです。来てくださった方々、コメントを下さった方々、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
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