遺伝子工学の天才ウラムは、自分の白血球をもとに全コンピュータ業界が切望する生態素子を完成させた。だが、会社から実験中止を命じられたウラムは、みずから創造した〝知性ある細胞”を捨てきれずに、研究所からもちだしてしまった・・・・・・この新種の細胞が、人類の存在そのものを脅かすとも知らずに!気鋭がハイテクを縦横に駆使して新たなる進化のヴィジョンを壮大に描き、80年代の『幼年期の終り』と評された傑作SF。
面白かった!
グレッグ・ベアの作品を読むのは、自分の中で起きた第一次SFマイブームの時期、中学生の時以来。『天空の劫火』に続いて二作品目です。感想としては、非常にオーソドックスなSFだなあというのが、一番でしょうか。80年代SFといえば、サイバーパンクが一番に思い浮かぶのですが、ギブスンなんかとはまったく雰囲気違うなあ。
DNAの転写というのは、大学の授業でやったので、なんとなく理解できて楽しかった。バイオコンピュータというのは、実際にはどのくらいまで研究が進んでいるんでしょうかねえ。
前半のウラムの様子は『ザ・フライ』の科学者を思い浮かべました。もし、映画化したら、ウラムの役はジェフ・ゴールドブラムにやってほしい。
やはり、最高に面白くなるのは後半からでしょう。アメリカを覆うカーテンのような生物。人間の存在を超越した高次元の生物へと進化した細胞郡。個体でいるか、郡体の中の一つの存在であるのか。その二つの選択肢を与えられたスージー。もし、彼女の立場になったとき、自分はどう行動するだろうか?
SFファンに嬉しい細かな部分(ウラムの壁にはってあるポスターとか、ウエルズの小説への言及とか)もいろいろあるのですが、これだけのスケールのでかい作品には不要な気もしないでもないです。どうせ勝負するなら、SFカテゴリだけでない一般小説にも挑戦するぐらいで書いていただきたいなあ。なんか、その部分だけスケールが小さくなった感じがするので。まあ、一長一短ですがね。
最後の方の宇宙はすべて情報だ云々のところは、なかなか説得力あって面白かったです。宇宙が仮説によって、その姿を変えていくというのは、感覚的に納得しかねる部分もありましたが、まあ、そっちのほうが面白いなあと思いました。このへんの突拍子もない理論、そしてそれを利用したラストも楽しかったです。
『幼年期の終り』とよく比較されるそうですが、この作品の場合、相互の対話や理解が及ぶ分、『幼年期の終り』ほどの容赦のなさはないと思いました。断絶と妙な寂寥感の残った『幼年期の終り』とは違い、どちらかといえば、父性的な感じのするヌーサイト、そして、現在の人間と繋がりを保持していることのあたたかみのようなものが心に残りました。いい作品です。
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