ノースウェスト・スミスシリーズ。宇宙パトロールの追跡を逃れ、熱戦銃一丁をたよりに星から星へと渡り歩く無宿者ノースウェスト・スミス。スミスは相棒の金星人ヤロールと共に宇宙の不思議と対峙する。
◎
『シャンブロウ』
スミスは群集に追われる一人の女を助けた。「シャンブロウ」と呼ばれていたその獣は一見、人間の女性に見えるが、正体はまったく違った・・・・・・。
SF怪談。雪女を連想します。夜な夜な生気を吸い取られるのは怪談の常套手段です。メデューサの神話と絡めてあって、物語の解決の仕方もうまいなあ。触手に絡まれて、おぞましさの中にめくるめく甘美を感じる・・・・・・。人間にとってもっとも淫靡な快楽といえるのではないでしょうか。女性なのにすごいなあ。女性だからこそ、すごいのかも。
◎
『黒い渇き』
スミスは絶世の美女の一族として名高い「ミンガの処女」の一人ヴォディールに招かれ、ミンガの城の中に侵入する。城主のアレンダーには不気味な秘密があるとヴォディールに聞かされるスミスだったが・・・・・・。
いやあ、この話が一番面白かった。暗い洞穴の中に、絶世の美女を幾人も飼っている。江戸川乱歩の世界そのままですよ!見るだけで気が狂いかけてしまう美女ってどんな顔と身体をしているのだろう?これこそ、「お話」の中でしか体験できない感覚ですね。アレンダーが食ってるものにも、乱歩理論を感じます。しかし、スミスには女難の相でもでているのではないでしょうか。
△
『真紅の夢』
スミスは市場で不思議な紅いスカーフを購入する。その紅いスカーフは夢世界へと誘う扉になっていた。
設定が火星になっているだけで、完全なファンタジイです。敵の正体も、夢世界の正体も明瞭にならないまま終わってしまって、消化不良。基本的に神話を意識している作品みたいなので、逆に、そこがファンタジイとしては正しいのかもしれませんが。
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『神々の塵』
スミスは相棒と飲んでいるところで、妙な小男に仕事の依頼を持ち込まれる。アステロイドが昔、惑星だった頃、そこには三体の神がいた。その中の一人、ファロールがまだ肉体を持っていたころの、その塵が欲しいというのだ。スミスは火星の北極にある遺跡へと向かうのだが・・・・・・。
神が人間と接触するためには肉体がいる(神は次元の違う世界にいるため、そのままでは接触できない)という考え方が面白い。古代の日本でもまったく同じような考えがあって、神が現世に降臨するときには、権者とか権化とかいって、誰かの肉体を借りたり、人間の仮の姿をして、やってくるものなのです。神とは眼に見えぬ光り輝くもの、または闇であったりするというところも、人間の心の底に刻み込まれた自然への畏怖みたいなものが見えて面白いですね。
イラストが松本零士氏なのですが、これはグッド・チョイスですねー。彼の描く女性は母性や神秘性を持っているので、このシリーズにはぴったりですし、彼の作品の持つイメージ(西部劇とSFの融合)みたいなものが、スミスとぴったり符合して、「この絵しかない」という感想を持ちました。あと、僕は野田昌弘さんの翻訳を読むのはめちゃくちゃ苦手なので、別の人になってよかったなと思いました。
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