石川雅之の第一短編集。『週刊モーニング』に02~03年掲載されたものを収録。
イブニングで『もやしもん』が好評連載中の石川雅之。今もっともはまっているマンガが『もやしもん』なので、発売日が待ち遠しい(九州は告知された発売日の二日後なんですよねえ)今日このごろ。待ちきれないので短編集を買ってみました。
まず帯を見て思ったのは、この人はやっぱり仕掛けが好きなんだなあということですね。帯には『もやしもん』はイブニングで好評連載中!!ということが書いてあって、そこに女性陣が三人描かれているのですが、見開きをのぞいてみると表側に顔を出そうと沢木たち男性陣三人が走ってきているという描写があります。
そういう仕掛けが物語中にも顔を出していて面白いんですね。伏線をちらりと見せておいてラストにつなげていく、という・・・・・・。ただ、ラストがナンセンス風味だけに理解できない人にはきついかもしれない。
一番好きなのは『趣味の時間』。
派遣のバイトで集まった初対面の男四人。昼飯時になり自然と話題は女の話に。そこで、彼らは
おっぱいフェチと脚フェチの二つに分かれ、互いの魅力を語り合う。しかし、女性美を扱っていることでは互いに同類だ。そこに気づき、彼らは和解する。そして皆で窓の外の女たちをウォッチングしていたが、実はその中の一人は
男をウォッチングしていたことがわかる。
このお話の巧さはテーブルがけに向かい合いで二人ずつ座らせるというところ。実は一人はホモセクシュアルなのだが、対面に「おっぱいフェチ」と「脚フェチ」を座らせることによって、二項対立の世界を作り出し、二対二であるという数のバランスを組み合わせることによって巧みに読者に錯覚を与えている。さらにホモセクシュアルの人物の語る言葉はそれはそれだけで完結しているのだが、それを勘違いしておっぱいフェチの人物が自分のフェチの正当性を力説するだけで、男はなんの嘘もついていないし、矛盾がない。
(ホ)「ビキニといえばふんどしもいいな・・・・・・」(ホモセクシュアルの話↓)
(お)「おおっ、宮沢りえだろ?当時みんなで回し読みしたなァ」(ヌードの話へ転換)
という具合である。
話が
「おっぱいフェチ」と「脚フェチ」というイデオロギーの二項対立から、「人ってのはつい大人になると自分の価値観を押しつけがちだ そんなつまらん大人になっちゃいけねェんだ!」という
「女」という範囲規定の中での多様性を認めようというポスト・モダン的な立場に話がいったん落ち着く。しかし、そこで一人が「男」が好きであるという
想定外のオチが待っているわけで、そこが非常に巧いなあと思ってしまうのである。オチの向こうにもうひとつオチが待っているのだ。
あと好きなのは息子がオカマになって帰ってきたことにショックを受ける両親のお話(「彼女の告白」)と話の長い一族に祟られる(「急げ隼丸」)、『もやしもん』の及川っぽい少女が登場する「フランスの国鳥」などです。
確実に醸されました。
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