ウォーターゲート事件の巻きぞえをくって囚人となったスターバックが回想する、前世紀末の労働争議、サッコ=ヴァンゼッティ事件、世界大戦、赤狩り・・・・・・そして、三年ぶりに刑務所から出た彼が、ニューヨークの想い出のホテルで見出したものは、いったい何だったのか・・・・・・?過去と現在が微妙に交錯し、八十年にわたる人間関係がときにシリアスに、ときにユーモラスに描かれる。アメリカの魅力と悪弊を通して、この物語は一つの強靭なメッセージとなって、読者の心に訴えてくる。現代アメリカ文学の巨匠が、人々への愛と怒りをこめて綴る〈新〉アメリカン・グラフィティ!
素晴らしい。キルゴア・トラウト最高。
『チャンピオンたちの朝食』のラストで「解放」されたはずの不遇のSF作家キルゴア・トラウトの復活で始まる物語。トラウトは脇役そのものにすぎませんが、時折その小説の筋などが語られて思わずニヤリとしてしまいます。
小説のテーマそのものが、やはり、心を打つ作品。「山上の垂訓」。宗教に対して懐疑的な僕ではありますが、人間を前方へ、理想的な方向へと押し上げてくれるこの言葉には、深く心打たれるものはあります。こういう部分では、宗教も大事にしなければいけませんね。
なぜ、トラウトは反逆罪で捕らえられたままでてこれないんでしょうか?そのへんの経緯が、読んでる間中不思議でたまらなかったのですが。解決されるのでしょうか?ちなみに、今『タイムクエイク』を読み進めています。
僕は精神的共産主義者であるので、語り手のスターバックには、思わず共感してしまう部分はあります。誰でも、若い時は一度は理想主義の門をくぐる。日本文学を専攻しているものとしては、戦前のプロレタリヤ文学のまっすぐさなんかには、感動させられる部分もありますしね(それが欺瞞的なものであったとしても)。ただ、実践っとなった場合、社会主義が現実に対応できるかどうかは、別ものだという非常に背反的な思想も僕は持っています。今の日本のシステムは世界的に見て、まあ、悪くないんじゃないかとは思いますけどね。改善する部分はいくらかあるにせよ、両思想のバランスはなかなかとれているんじゃないかと。これから、どうなるかはわかりませんが。
先日、ディックの作品を読んだわけですが、根元の悩みの部分では、二人とも同じようなものを抱えているなあと思いました。ただ、それが、ディックのように自己破壊的な衝動や闘争に発展していくタイプと、ヴォネガットのように諦観の念でそれを眺めているタイプとに、態度が違っていくだけであって。どちらかというと、僕はヴォネガットのほうに感情移入するようです。心に残る一冊となりました。
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