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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

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Let’s read SF!(112) フィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』

img034.jpg 三千万の視聴者から愛されるマルチタレントのタヴァナーは、ある朝見知らぬ安ホテルで目覚めた。やがて恐るべき事実が判明した。身分証明書もなくなり、世界の誰も自分のことを覚えてはいない。そればかりか、国家のデータバンクからも彼に関する記録が消失していたのだ!“存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながら悪夢の突破口を必死に探し求める・・・・・・現実の裏に潜む不条理を描く鬼才最大の問題作!

 面白かった。静かな衝撃というんでしょうか、読み終わった後、しみじみ。

 登場人物の誰もが、人生に悩み傷ついていて、必死にそれをどうにかしようと闘争している。作者ディックの生きることに対しての闘争がそのまま小説に表れた感じなのでしょうか。胸にくるものがありますね。くそったれで、それでいて、愛すべき人生、そして人々・・・・・・そういった感じでしょうか?

 ただ、小説としてはどうだろう?と思う部分もあります。世界観に対する明確な説明もないし、状況で語ろうとしているのでしょうが、情報量が足りないがために欲求不満な部分がないでもないです。肝心の謎解きにしても、検死官があっさり。そこが一番重要なのじゃないか?さんざ、引っ張っておいて、肩透かしをくわされたような感じでした。謎解きそのものは面白かったですけどね。

 昨日、読んだ『エンダーのゲーム』では、ヴァルやピーター、その他の人物の関係性から、(僕は現実世界の曖昧さ、人々の気持ちや考え方、それらの他人に対する理解の不十分さを補うために、それがはっきりと呈示されている小説世界に焦がれるのではないか?そこにはある種の『確かさ(絶対性)』がある。だから小説を読むのだ)と思いましたが、今日はまるっきり反対の『不確かさ』の世界に放り込まれました。これは、これであり。人間ってのは、振れ幅の大きな世界で生きているんだなあと思いました。今日の針はあっちに振れ、明日の針はこっちに振れる。どっちも楽しもうと思えば、楽しいもんなんですねえ(人事であれば)。

 不条理小説やSF小説としては、まあまあだなあと感じます。それよりも、ディックの思想や内奥の苦しみに共鳴して、心の奥深くに突き刺さる作品です。そして、何より題名がかっこいい。
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