保安警察の捜査官がカーニヴァルで出会った奇妙な占い師。“個人の占いお断り”―――つまり人類の未来だけを占うという、この男がジョーンズだった。一年先までを完璧に予知できる超能力者である。世界政府は彼を即刻監視下におくが、やがて彼の元に人々は集い、政府を脅かす組織にまで発展する。一方、太陽系には〈漂流者〉と呼ばれる謎の物体が飛来していた。ディック50年代の名編。
なかなか面白かった。
オーソドックスなSFという感じがしました。あまり、異色ではなく、ディックらしさの爆発はないですが、そのぶん読みやすかったです。
ジョーンズを信奉する人々の姿に、基本的に人は宗教がなければいきていけないのだなあ、と思いました。宗教というよりは、信仰ですね。ディックにとっては、共産主義であれ、資本主義であれ、イスラム教であれ、それは一種の幻想でしかありえないと思っていたのではないでしょうか。主人公が信じているのが、相対主義であるというのが非常に興味深く、面白いところです。僕も、信条的には、これにかなり近いものがあるので。
しかし、ジョーンズというのは頭のいい男です。予知能力という一つの才覚を利用して、独裁者にまで上り詰めてしまうわけですから。そのジョーンズにさえ、同情の念を示している(と思われる)ディックは、とことん優しい人ですねえ。それが、登場人物、一人一人のキャラ立ちがしっかりしているのにつながっているのでしょう。
金星に移住したミュータントたちの様子も、なかなか面白かったです。今のSFでは語れないようなことばかりですが、逆にそこが面白いんですよねえ。素人考えですが、科学の発展はSFを呪縛している部分もあり、発展させた部分もありますが、どちらかというと僕は古いSFの方が、奔放な部分があって、好きです(と、いうより、最近のSFはほとんど読んだことないからか)。
結末もディックらしいハッピー・エンドで、最後まで楽しませていただきました。
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