どこからともなく供給される麻薬、物質Dがアメリカ中に蔓延していた。覆面麻薬捜査官アークターは、捜査のため自らも物質Dを服用、捜査官仲間にも知らさずに中毒者のグループに潜入し、彼らと日々を共にしていた。だがある日、彼は上司から命じられる。盗視聴機を仕掛け、アークターという名のヤク中を―――彼自身を監視せよと。彼はその命令に従うが・・・・・。ディック後期の傑作。
うわあ・・・・・・。麻薬って、怖い。「ドラッグが君たちを壊していく」。公共広告機構の標語そのままの世界。アークターが壊れていく様子が怖い。自分を失っていくって、本当に哀しい。
キアヌ・リーブス主演で『スキャナー・ダークリー』公開。と、いうわけで、読んでみました。しかし、キアヌはSF映画がよく似合う。アレなできだった、『JM』も含めて。予告を見た限りでは、これも「アレ」な映画かもという予感がひしひし・・・・・・。
SFらしいSFではないですが、幻想小説・・・・・・じゃなくて、幻覚小説です。やっぱり、ディックの小説には、妄想とか、幻覚とか、でてこないと満足できない。そういう意味では、全篇において、それが爆発した凄まじい作品。
壊れている人たちの、壊れている会話に、こちらも思わずトリップしそうになってしまいます。読んでいると、酩酊してくる感覚に陥り、もしかしたら危険な小説かも。ヤク中さんたちは、みんな心優しいけど、ダメ人間ばかり。しかし、自身もダメ人間な僕はけっこう彼らに感情移入しちゃいましたが。
ロックの音楽とか、やっぱり、ヒッピーをイメージした感じでしょうか。ドナがキャロル・キングの『タペストリー』を聴きながら、コカコーラのトラックに突っ込むところなんか、僕も好きな曲だったので、イメージがすごくわいてよかった。ヒッピームーブメントは、確かに理想主義的なところがあって、それが麻薬中毒の人々がいい人に描かれている根源かな?
ラストの哀しい感じが非常に切ないですが、これはやはり、ディックの自身の体験もあって、こうせざるをえなかったんでしょうね。これを読んで麻薬に惹かれるか、絶対しようと思わないかは、個人の受け取り方にもよるでしょうが、トリップ感に危い魅力を感じてしまう人も確かにいるでしょうねえ。
ところで、この解説は僕にはなんだか不快だったんですが・・・・・・。読者は自分を分析してもらっても嬉しくない。むしろ、こんなこと書かれたら落ち込んじゃうよ。SFの訳者解説というのは、作品の魅力を読者と分かち合ったり、紹介したりするものが多いので、突き放されて書かかれているのを時々見かけると、そのギャップに、なんだか、すごく不安になる。あなた、SFを愛してますか?と。もちろん、愛している故のことなんでしょうけど。まあ、そんなことは置いといて。
とにかく、「ああ、読んでよかった」と読後に思えた作品でした。
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COMMENT
無題
ここのところだめな生活をしてたので、それじゃあと思ってこの本を読みました。作品に受けた感じとちがって、解説の印象がかなり僕とちがうみたいで、なんだか面白いと思いました。僕はあの芸風結構好きかもです。そういえば、あんまりきらいな解説ってないんですけど(単純につまらないと思う解説はありますけど)、『イルカの島』の解説は結構だめだったかなあ。
ああ、なんか返事を書きにくそうな「ふーん。それで?」という書き込みをしてしまった感がひしひしとあります。ごめんなさいー。というようなことを書かれても、と思いますが、ますが! まあそんな感じで!
やさぐれてたので・・・