過去、現在、そして未来へと不断に流れゆくべき“時”が反逆を開始した。プレリュードに提示された日常はフーガの対位のなかに不吉な予兆を挿入され、ついには恐るべき相貌を顕在化して亀裂のうちに崩壊する。やがて地上に出現するのは異形の新世界―あらゆる時代が同時存在して地図上に描かれ、古代ギリシャへの船旅さえもが可能となったのだ!
SFの古典的テーマのひとつでもある時間テーマに、世界的天文学者として、また一流のストーリイテラーとして高い評価をうける作者が、事故の野心的な時間意識論をひっさげて挑戦する問題長篇!
時間ものです。
開拓時代に戻ったようなアメリカ、第一次世界大戦の起きているヨーロッパ、或いは人類の滅びた後の地表の姿・・・・・・。それが、同時に「現在」に存在している世界・・・・・・。お、面白い。
音楽家である主人公が古代ギリシャへと渡り、そこで芸術のなんたるかを考えたりするところとか、いいです。全篇に音楽というよりは、「芸術」とはいったいなんであるのか、というテーマがあっていい。しかし、同時にSFにおける「科学性」と「芸術性」の関係を暗に言っているような節も見受けられるような気もします(アバンギャルドな音楽に対する批判とか)。
ほかの時間テーマと違って、積極的に過去に介在するところが面白い。まあ、この作品では、「過去」≒「現在」となり、弁当箱のおかずとゴハンみたいな仕切りを入れられたみたいな関係(?)になっているらしいのですが。一回さらりと読むだけでは理解できず、何度も何度も読み返したりしたのですが、結局、いまだに判然としないまま読み終えてしまいました。僕の頭が悪いのでしょうが。
まあ、でも、最後の種明かしとかもすごいです。こういうすべてをひっくりかえすようなラストは僕の好みです。ただ、そこに至った経過とか、黒幕がわからないとこなんかは、先ごろ読んだ『人類皆殺し』に近いものがあって、人間存在の卑小さに震えてしまいました。最後の主人公の選択など、なんだか、安部公房の文学みたいなテーマもあって、読み終わった後に、「ふうー」を息を吐き出して、遠くを眺めてしまいました。なんだか深淵な作品です。
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