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『ハイアニス・ポート物語』
浴槽の防水外枠の件で、民主党のネガティブキャンペーンに出かけていた「わたし」はなぜかハイアニス・ポートの豪邸にいた。
うーん、なにが面白いのかよくわからないが、面白い。父親が働いていないというのに、吹き出した。ヴォネガットの文章って、次になにが飛び出すかわからなくて、読んでてわくわくする。
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『孤児』
ドイツの孤児院にいる褐色の肌の男の子。彼の親が「アメリカ人」であると周囲の人間は考えていた。
日本でいうと純文学に分類されるお話でしょう。なんだか、寂しくなってくる作品。でも、しみじみとした余韻がいい。
◎
『バーンハウス効果に関する報告書』
世界の軍備システムは、たった一人の男のために崩壊した。彼の名前はバーンハウス。世に言うバーンハウス効果の発案者であり、実行者であった・・・・・・。
ヴォネガットの戦争嫌いがよくでた素晴らしい作品。彼はよく自分は大学生みたいな問題を真剣に考えているから、若い人によく読まれる、といっていたが、この生真面目さがやっぱり彼の魅力だと思う。
◎
『ユーフィオ論議』
ボックマン博士が発見した「無」の音は人間を至上の幸福感に包み込んでくれる。もう、なにもしたくないほどに・・・・・・。
幸福感に包まれつつ、暖炉に突っ込むさまに笑いました。こういうユーモア、しかもそれがちっとも安っぽくないユーモアであると、こちらも幸福感を感じます。
◎
『帰れ、いとしき妻子のもとへ』
仕事である作家のもとに訪れた「わたし」は、作家とその有名人の恋人が喧嘩別れするのを知る。
うーん、突飛な行動を登場人物がとったりするんだけど、それがちっとも不自然ではないんですよねえ。巧い作家って、そういうもんですねえ。
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『構内の鹿』
生活の安定のために、ある工場に仕事口を求めて飛び込んだデイヴィット。そこで、なぜか彼は構内に紛れ込んだ鹿を捕まえる指令を受けることに。
これも純文学風の作品。しかし、なんだか読んでいて惨めな気分になってくる。
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『嘘』
レメンゼル一家は息子の入学手続きのために、自分の一族が多大な貢献をしているホワイト・ヒルスクールに向かっていた。
これも純文学風。うまくいえないがいい。いい。
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『未製服』
人間はその肉体を脱して、精神体として生活できることが可能になった。しかし、肉体に拘束されている人々はそれを許そうとしなかった。
面白い。人間の肉体がさまざまな悪害を及ぼすというのには、賛成します。僕も肉体を離脱して、自由に暮らせたらいいのになあ、と思いました。しかも、肉体を貸し借りして美男になったりできるのだ!いいなあ。
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『手に負えなかった子供』
音楽にすべてを捧げる男ヘルムホルツ。彼は無気力な目を持つジムという少年に出会う。
不良少年更正物語。いい話やー。
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『人間ミサイル』
人類初の宇宙飛行士の父のロシア人があるアメリカ人の父親に向けた手紙から始まる、心温まり、そして悲しい文通。
しみじみしちゃいます。作品発表が1958年。まだ、ガガーリンは宇宙に飛び出ていないのですね。
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『エピカック』
政府のコンピュータエピカックに恋の相談をした「ぼく」。コンピュータは美しい恋の詩をプリンタから吐き出してくれるのだが・・・・・・。
ちょっといい話。ラストがいいなあ。
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『アダム』
子供の生れたことを喜ぶハインツ。しかし、周囲の人はあまり関心を抱いてくれない。
これもちょっといい話?まあ、当事者にとっては特別なことですよね。
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『明日も明日もその明日も』
不老薬が発明された未来。老人はそれ以上老いず、そして、ニューヨークのある一家では、年長の老人が絶大な権力を握っている。
読んでいて胸が悪くなるお話ではあるのですが、まあ、面白いです。特に刑務所に行ってからが面白い。
総評:1よりもSF含有率が上がっていて、いいです。特にお気に入りなのは『未勢服』でした。ヴォネガットの小説は話がたいしたことなくても、文章読むだけで楽しめます。そして、その根底に横たわる問題意識が生真面目で、ユーモアあふれる文章とのギャップがあっていいですね。
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