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ミステリの森に迷う⑩ コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』

 引退して田舎に引籠もっていたホームズが、ドイツのスパイ逮捕に力を貸す、シリーズ中の異色作『最後の挨拶』。ほかに、一人暮らしの老婆のもとに塩漬けの耳が送られてくる『ボール箱』、姿を見せない下宿人と奇妙な新聞広告の謎を解く『赤い輪』、国家機密である特殊潜航艇の設計図の盗難をめげってホームズ兄弟が活躍する『ブルース・パティントン設計書』など全8編を収録。

「ウィステリア荘」

 
招待され宿泊した家でスコット・エクルズが朝目覚めると、主人も使いの者も誰一人としていなくなっていた。

 朝目覚めると○○という状況が非常に好きです。依頼にきた人物のすぐ後に警察が来るという状況も面白かったです。

「ボール箱」

 
レストレード警部より手紙が来た。ある婦人のもとに塩漬けの耳が届いたというのだ。

 センセーショナルな内容であるとは思うけど、現実の事件でもっとひどいことあったしなあ。確かに不快な気分になるのは、全般的なホームズの傾向が上品だからでしょう。これが、横溝正史や乱歩だったら、エロ・グロ・ナンセンスで片付けられるかもしれないですが。

「赤い輪」

 
下宿屋のおかみがホームズに相談しにきた。不思議な下宿人がいるという。

 動機のパターンが珍しくないのが残念ですが、下宿人の行動を読み解いていくホームズの推理のなんと鮮やかなことよ。張り込みの楽しいです。

「ブルース・パティントン設計書」

 
珍しくもマイクロフト・ホームズがホームズのもとに訪れた。国家の一大事にホームズが奮闘する。

 最初にこのトリックにお眼にかかった小学生のときは、なんとすごいことだろうと思いました。対スパイの話はどれも面白い。

「瀕死の探偵」

 
ハドスン夫人がワトスンのもとに相談をしにきた。ホームズが今にも死にそうな状態だというのだ。

 このお話は好きなんですねえ。ホームズものの面白さは物語を盛り上げる彼の芝居気たっぷりの動作なのですが、全篇に渡ってこのお話はそれがでていると思います。

「フランシス・カーファクス姫の失踪」

 
フランシス・カーファクスが旅先で失踪した。彼女の行く先を怪しい男が訪れているというのだが・・・・・・。

 やはり、最後のシーンが好きです。踏み込んでからの緊張感がいいですね。

「悪魔の足」

 
ホームズの静養のために訪れた田舎町で奇怪な事件が起こった。一家を襲った突然の悲劇。生き残った二人も精神がおかしくなっていて・・・・・・。

 このお話も小さい頃読んで鮮明に記憶に残っています。特にワトスンとホームズが実験するところが記憶に残っています。あのときでさえ、「この人たちはバカじゃないとかいな?」と思ったものですが、今読んでも笑ってしまいます。

「最後の挨拶」

 
ドイツのスパイ二人はほくそ笑んでいた。イギリス人ほど御しやすいやつらはいない。しかし、ある男が彼らの計画を見破るために立ち上がっていた。

 三人称で描かれた作品。「最後の挨拶」らしく、しみじみとした筆致がすばらしい。

 総評:「瀕死の探偵」が好きです。毎回毎回だまされるワトスン君の人間性が好きです。男の友情でわかるんですが、ときどきこの二人の仲を疑ってしまいます。お前ら愛し合っているだろう?と。さて、冗談はさておいて、「悪魔の足」の一シーンはホームズものでも数本の指に入るお間抜けなシーンだと思うのですが、外に転がって慨嘆する二人の姿は、作者の狙いなのか、そうでないのかにわかりませんが、笑えます。
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