九州博多付近の海岸で発生した、一見完璧に近い動機づけを持つ心中事件の裏にひそむ恐るべき奸計。汚職事件にからんだ複雑な背景と、殺害時刻に容疑者は北海道にいたという鉄壁のアリバイの前に立ちすくむ捜査陣・・・・・・。列車時刻表を駆使した、リアリスティックな状況設定により、推理小説界に「社会派ミステリー」の新風を吹き込み、空前の推理小説ブームをまきおこした秀作。
地味です。地味だけどなぜか面白い。
今度、松本清張記念館に筒井康隆氏の講演を聴きにいくのですが、さすがに地元作家(といっても、小倉と福岡市はけっこう遠いのですが)の作品を読んでいないのは恥ずかしいし、清張さんにも失礼だろうと思って購入しました。舞台は九州博多。香椎とか、志賀島とか、なじみのある名前がいっぱい載っていて、地元民(といっても、これまた車で二十分くらいかかるのですが)としては嬉しいです。
バリバリの本格好きな僕からしてみれば、社会派は苦手な部類のはずでしたが、なかなか楽しめてしまいました。刑事は足で稼ぐのが基本。それをお手本にしたように九州から北海道まで捜査をしてまわる刑事の姿に執念と少しの哀愁を感じてしまいます。そして、そうした地道な努力が実を結ぶと、やはり嬉しくなってしまいますね。黒澤明監督の『天国と地獄』で刑事たちが必死に捜査をするシーンを思い浮かべました。
ただ、果たしてどのへんが画期的なのだろうか?と自分が生まれる遥か前の本に、僕はそう思ってしまうのですが、解説から類推すると、この作品の「リアリティ」がそうなんでしょうか。刑事の性格は、そこまで掘り込まれていないし、トリックも人間の錯誤を利用したものでそこまでびっくりもしない。変人の名探偵や、奇抜なトリックを好む僕ですが、この「いかにもありそう」な設定が逆に新鮮なような気がしました。でも、それだけになんだか凡庸な感じは否めません。あ、でも犯人についてはうまいなあと思いました。
社会の暗部に切り込んでいく後半の展開が好きでした。もうちょっと読んでみたいなあと思ったので、近々、『張り込み』とか『ゼロの焦点』とか、名作と呼ばれているものを読んでみたいと思います。
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