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海外古典を読む③ アプトン・シンクレーア『人われを大工と呼ぶ』

 ドイツの前衛映画『カリガリ博士の手筐』を観た帰りにビリイは反独派を名乗る映画ゴロに殴り倒される。逃げ込んだバルトロマイ教会でふと祭壇の上のキリスト像を眺めると、肖像画のキリストがその手をビリイに差し伸べた!現代に降り立ったキリストが共産党員と間違われて起る大騒動を描いたアプトン・シンクレアの傑作。

 「有史以来最初の現象として、人類は今政治と宗教とが完全に引き離された世の中に生きてゐる。したがつて読者のうちには、この小説を単なる一片の狂言綺語と思ふ人もあるかも知れないが、すこし注意すれば、これが、世界最古の無産者運動の創始者、革命的殉教者の記録――一般に聖書と呼ばれてゐる――の忠実な物語化であることに気がつくであらう。――アプトン・シンクレーア」

 と、いうわけでキリストは世界最古の社会主義運動家であった……という視点から、現代(といっても世界恐慌後)のアメリカにキリストが降臨したことによって巻き起こるドタバタを描いた作品。これが面白い。

 キリストの口調が実に古めかしくおかしく描かれているのも、訳者がよく考えて訳しているのかなあと思います。

 「我なんぢに告ん。故なくして人の群騒げるは盲目(めしひ)の状(さま)なり。悪鬼に憑れたる者にも劣り。蓋(そは)人の衷(うち)に棲る四肢(よつあし)にて匐(は)うものの其主人と偕(とも)に逃去る有様(かたち)なれば也。」

 読みにくいぞ。

 ところどころに登場するギャグなんかも非常に面白い。特に無産主義者、無政府主義者として秘密警察っぽいところの陰謀にはまりそうになったカアペンタア(キリスト)をKKK団に扮した女優と映画のエキストラたちが奪還してさらっていくところなんか興奮します。女優の口上がこれまた面白い。

 「さーがーれーいッ!尽忠報国団KKKの大帝魔王だぞよ、下れーいッ!」(略)「暴徒のなかの暴徒、暴力団の総大将、向ふところ敵なき大権万能の超特弥次だぞッ!秘教の大軍の最高首脳、総指揮官役なる龍(ドラゴン)の厳命、不朽の栄誉に輝く尽忠報国団KKKの大帝魔王の申すことを、これ、よつく承れ!」

 その他新聞記事の嘘っぱちを暴いたり、体制側の仕掛ける罠を描いたり、社会派な描写も見られて考えさせられます。ただキリストの殉教的な姿勢が滑稽に思えてしまうのは、こちらが無心人者だからでしょうか。それとも作者の狙い?ラストの毛脛をむき出しにして群がる帰還兵を弾き飛ばし往来を駆け抜け、三段跳びで絵に戻ってしまうキリスト・・・・・・というシーンが視覚的に容易に想像できる、その描写力も素晴らしいと思いました。

 しかし、こういうものがよく検閲を通ったものだ(昭和五年の発行)と感心してしまいますが、当時は許されていたのですかねえ。心情的左派の僕としては、とてもお気に入りの一冊となりそうです。
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