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時間が熟成した物語 本多健志『Stop!ナデシコさん』

img239.jpg 本多健志によるギャグ漫画。01~02年『週刊ヤングサンデー』に連載。

 榊撫志子、17歳。彼女は「最近心に留まったこと」を口にしながら、ピンクレディーの「UFO」の決めポーズをすると一日に二度、十分ずつ時間を止めることができる。世界征服さえ可能なこの能力も純真な彼女には遅刻を避けたり、人助けに使われたりで日常の延長でしかない。しかも、彼女のおっちょこちょいな性格のおかげで、大騒動になることも・・・・・・。


 時間を止めることのできるシチュエーションを利用したスラップ・スティック・コメディ。
 基本的には一話完結の連作形式なのですが、シリーズ全体を通して定型があります。

 何か事件が起こる→撫志子が時間を止める→事件を解決に導こうと撫志子が人や物に操作を加える(そして更に騒動をひどくする)→時間が動きだし人々が急激な変化に戸惑い騒ぐ→再度時間を止め、人や物に操作を加える(多くの場合更に騒動をひどくする)→オチ

これが一連の流れです。さて、撫志子が時間を止める際には、「最近心に留まったこと」を叫ぶことがお約束となっています。この漫画には時間を止めた後の人や物の操作によるドタバタ喜劇要素(例えば時間が止った状況で学校での集会の行列をドミノ倒ししてしまうというギャグ)と毎回二回ずつ撫志子が叫ぶ「心に留まったこと」、つまり時事ネタによって構成されています。
 時事ネタは一般的にテレビやラジオ、ライブ向きのネタだと考えられていると思います。それはそのメディアの持つ速報性が理由です。テレビやラジオ、ライブでは演者と観客が同じ時間を共有しているから、ネタの新鮮さは常に保たれています。対して漫画の場合、その新鮮味は「発表される時点ではすでに古びている」という可能性が生じます。漫画は描くという紙に固着する行為、印刷、発行という手順を踏む間に二、三週間のタイム・ラグが発生してしまいます。更に紙に固着されるという特性から、漫画は形となって後に残ってしまうメディアなのです。なので、僕が今回読んだようにして、連載から6~7年というタイム・ラグを持って読む人間もいるわけです。
 ギャグというのは元ネタを知っていないと笑いを喚起しません。例えば『ハヤテのごとく!』という漫画で、「カツ○タくんなみに誰?」という台詞がありましたが、これは『二十世紀少年』という漫画を読んでいないと笑えないギャグでしょう。そういう意味で、時事ネタというのは忘れ去られて行く運命にあるものですから、昔のギャグマンガを読むとそのあまりのわけのわからなさに悲哀を感じてしまうことがよくあります。笑い(だけには限りませんが)というのは同時代性が大事なんですね。

 ところが、この漫画を読んでみると意外にもその時事ネタが妙に面白いのです。しかし、それはきっと連載当時に感じたはずの面白さとはまったく別もののように感じるのです。おそらく連載当時にこれを読んでいたのならば、僕はきっとこの漫画は買わなかったでしょう。その面白さの種類とは「ああ、あったあった。懐かしいなー」「へえ、こんなことがあってたのか」というものだったからです。それは時間というものが熟成した「懐古」という感情だったのです。少し例を挙げてみましょう。

「懐かしい」系

 怖いよねー、熱中症って。
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「そんなことがあったの?」系

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文学の評価の一つに「時代性を象徴している」「歴史資料的価値がある」というものがあります。そういう意味でいえば、2001~02年というたった二年という時期ながら、その頃の資料的価値として非常に密度の濃いものであり、当時の人間の実感というものを再体験させてくれる面白さがあると思います。そして、その頃のことが記憶の彼方に埋没してしまう前のこの2008年から先数年ぐらいは最もこの作品を鑑賞するにふさわしい年であると思います。時間というものに醸されたこの物語、腐ってしまう前に皆さんもいかがでしょうか。

 そして、この作品が「時間を止める」という行為によって成り立つ作品であるということに僕はある種の皮肉というか、哀愁を感じてしまうのです。時事ネタを叫ぶ行為が時を止める。時を止めるという時間を考えさせる行為が逆に時間は無情にも流れて行くということを強調するのです。
 しかし、逆に言えばその時代の雰囲気が本の中に固着されている。そのことは時代を漫画という表現の中に閉じこめた、時を止めてしまった、といえるのかもしれません。芸術作品というものの持つ意味や価値を、少し再考させられた漫画でした。
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