僕の住んでいる地域の甲子園の県予選が昨日開幕いたしました。我が母校も出ていますので注目しています。さて、今日は
川原泉『甲子園の空に笑え!』。1984年、『花とゆめ』連載作品。
九州のど田舎にある私立豆の木高校に新任の教師としてやってきた広岡真理子は野球部顧問に任命される。弱小野球部の姿を見て呆れていた真理子だったが、以外にも自分に野球の素質があることを知り、野球に熱中していく。結果、豆の木高校は見る間に強くなった。さらに予選での
シード校廃止という制度上の改変の追い風も吹き、なんとなんと豆の木高校は甲子園に出場してしまうのだが・・・・・・。
以前も書きましたが、川原泉のスポーツ漫画は「勝利至上主義」「根性論」から最も離れたところにあるのが特徴です。作中でその最も典型的な例である(象徴ともいえる)『巨人の星』がこう揶揄されているのはそのためでしょう。
星飛雄馬と伴宙太、花形満が三人で抱き合っている描写。星に抱きついている花形の手に「
この手がいやらしい」と註釈がついており、次のような広岡監督によるモノローグ。
突然火事のよーに炎上するマウンド 涙と汗は華厳の滝
ささいな事ですぐ感動する少年達が球場の観客を全く無視して泣きわめく・・・
さらに生物の教師である広岡監督はこう追い討ちを・・・。
常軌を逸したあの興奮状態は交感神経の異常だなきっと・・・ 病院に行ったほうがいいぞ 星君
このように豆の木高校野球部は「根性論」とは相容れない世界です。しかも、元々弱小チームなので買ってもうけもん。当然、プレッシャーもない。さらにうやむやの中にシード制が廃止され、強豪にも当たらずに予選の決勝まで進出。運と実力を発揮しまくり、甲子園に出場することになってしまいました。
川原マンガの肝はその
詩的・かつ哲学的な台詞まわしにあります。ページをパラパラめくってみるとモノローグや台詞のないページはありません。川原泉のマンガを読むとき、我々はつらつら連なるその台詞で読むリズムを作っているのだと思います。
「である調」や口語的な文体(「だもんね」「んだからどーした」とか)の配分の仕方もいいんですよねー。また長音(「ー」「~」などの伸ばす音)が頻出するのも特徴でそれが川原マンガののんびりムードをかもし出していると思います。
最後の数ページの詩的な語りは胸にジーンときます。
なお、単行本には文庫版でカットされている
四分の一スペースというものがあるのですが(雑誌掲載時、元々広告のスペースだったもの)、そこに書いてあるカーラ教授の生活も非常に面白いです。
併録は『3月革命』(血の繋がらない姉弟もの)、以前ご紹介した『月夜のドレス』、SF作品『メロウ・イエロー・バナナムーン』。こちらも面白い。
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