秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。(新潮文庫:紹介文より)
短編集。収録作「螢」「納屋を焼く」「踊る小人」「めくらやなぎと眠る女」「三つのドイツ幻想 1 冬の博物館としてのポルノグラフィー 2 ヘルマン・ゲーリング要塞 1983 3 ヘルWの空中庭園」
自分の内部にあるものが、他人にはそのまま伝わらない、理解してもらえない、あちらに届かない。あるいは理解できない、こちらに届かない。その哀しみ。
特に「螢」「めくらやなぎと眠る女」は長編「ノルウェイの森」に再登場するし、後者は朗読用に書き直されてもいるので(『レキシントンの幽霊』収録)作者の思い入れを感じます。
コミュニケーションの問題を中心に読んだものが「螢」「納屋を焼く」「めくらやなぎと眠る女」、イメージの豊かさで楽しんだものが「踊る小人」「三つのドイツ幻想」。特に後者の二つの作品では、象工場の様子、小人のダンス、鎖に結び付けられて屋上に浮かぶ空中庭園などを頭の中に思い浮かべて遊ぶことができた。
「めくらやなぎと眠る女」はバージョンの違いを見つけるのも楽しいし、何回読んでも飽きないし、やっぱり面白いんだと思う。
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