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『R62号の発明』
勤めていた会社を首になり、自殺しようと川へ行った「彼」は、学生にスカウトされ、ロボット「R62号」に改造される・・・・・・。
労働者=ロボット。社会主義的思想の物語ですね。後半に登場する資本家たちの醜い様子が印象的でした。
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『パニック』
再就職先をさがしていた「私」は職業紹介所を出たところで、声をかけられる。その男はパニック商事の求人係だというのだが・・・・・・。
こういう怪しげな男に声をかけられて・・・・・・というパターンは多いですね。でも、現実との繋がりを失っていく面白さがあって、いいです。
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『犬』
画家のS君はモデルと結婚した。そのモデルの飼っている犬は・・・・・・。
筒井康隆の『ブルドッグ』を読んだのと同じような感覚でした。犬嫌いなのかなあ。
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『変形の記憶』
コレラにかかり射殺された兵隊は、肉体を抜け出して、閣下らと同じ車に乗り込んだ。
不思議な作品だなあ。これも、共産党の革命話的な背景がありますねえ。ラストの閣下の魂は、なにか意味ありげなんですが、はっきりとした意味はわからなかった。
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『死んだ娘が歌った』
睡眠薬を飲んで自殺した娘は、肉体を抜け出して、自分の死体のそばに座っていた。
これも前作と同じく不思議なお話です。これはテーマがはっきりしていて、搾取され続ける娘の悲哀、労働者の残酷物語ですね。悲しいです。
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『盲腸』
ある新学説の実験台として、自分の盲腸のあとに、羊の盲腸を移植したK。彼は家族の前で藁を食べるが・・・・・・。
なんか、ぶっ飛んだ話ですが、内容は暗いです。飢餓を克服するために、人間の肉体を改造する。外形が内面を侵食していく様子が不気味でよかった。
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『棒』
子供たちの世話をしていた父親は、一本の棒となって、道路へ落ちた。
うーん、不条理。このお話は僕の抱いていた安部公房の小説のイメージそのままですね。「裁かぬことによって裁いたことになる人間」というセリフが考えさせられる。短いですが面白いです。
◎
『人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち』
三人の紳士の前で、その男は訴えた。人肉食用は倫理に反すると。
肉をくわれる階級と、食う階級があり、食う階級は自らの立場からのみ喋り、食われる階級を下劣とみなしている・・・・・・。これも裏には資本家と労働者の関係性があるようですね。もちろん、H・G・ウエルズの『タイム・マシン』の影響もあるのでしょうが。
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『鍵』
田舎から叔父をたずねて出てきた一人の青年。偏屈な叔父は、人の心を読む娘と、青年を罵倒するのだ。
ラストがよくわかんなかったけど、大筋では楽しめました。しかし、不思議な設定のお話が多いんですが、それが奇妙に思えないで、物語の中に溶け込んでいるのがすごいなあ。
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『耳の価値』
ある善良な大学生が、なにかのはずみで留置場に放り込まれた。釈放された彼はそのわけを探り出そうとするが・・・・・・。
耳を切り落とそうと悪戦苦闘する姿がこっけいで面白いです。法の抜け穴をさがして大もうけしようというお話ですが、悪びれないラストがなんだか、好きです。
◎
『鏡と呼子』
教師として赴任してきたK。彼が下宿しているところの主は望遠鏡で村を一日中監視しているのだ。
他人に対する疑心暗鬼な様子が描かれていて面白い。家出の思想を語るところなんか、逃げる、或いは追うお話が多い安部公房らしいのかな。最後の遺産を家の真ん中に積み上げている様子なんかも、なんともいえずいいです。
☆
『鉛の卵』
古代炭化都市層から変楕円形をした鉛の卵様のものが発掘された。そして、八十万年のときを隔てて、「古代人」は目覚めた。
SFです。「八十万年」のところは、『タイム・マシン』に対抗したのでしょうか。社会の変化、それによる価値観の変化などが語られていて、阿部公房のいう「仮説の文学」という言葉がよく理解できました。現代の人間を未来に飛ばすことによって、逆に現代を浮き立たせるという手法で、素晴らしいと思います。最後のオチは読めたけれども、ただのアイデアストーリーではないなにかがあると思いました。
総評:これは僕の考えるSFの一方の極みだと思います。それは寓話という形式ですね。SFが純文学たるには、そういう形式でないといけませんね。まあ、単にエンタテイメントとは描き方の違い一つだと思いますけれど。
ベストは『鉛の卵』ですね。『砂の女』風の『鏡と呼子』、も面白かったです。全体的に、不思議、あるいは変な話が多くてよかった。
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