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SF素人が空想科学小説に耽溺するブログ。

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SF読もうぜ(285) 小松左京『日本売ります』

img250.jpgかつて存在し、そしてある日忽然と地上から消え失せてしまった国「日本」――自分が“契約”さえしなければ良かったのだ、と語り出す謎の男。彼こそ日本を売ってしまった張本人だというのだ。「日本売却」の顛末をユーモアあふれる悪魔的タッチで描く表題作をはじめ、SFの奇想をたっぷり盛りこんだ、ナンセンスあり、ショートショートありの傑作全二十二篇を収録。

「日本売ります」

 その詐欺師まがいの男が語ったのは地球上から忽然と消えたあの日本のことだった。

 奇想がきいた作品で、このようなホラ話は大好き。会話体の語り口が非常に軽くなじみやすく、スラスラ読めて好きです。

「紙か髪か」

 ある日、世界中から紙が消えてしまうという怪現象が起きる。これまで紙に頼っていた文明はボロボロ、そしてそれはあるウイルスが起こしたというのだが・・・・・・。

 ドタバタなのですが、筒井康隆の場合が「おれ」を中心とした個人的ドタバタだとしたら、小松左京のそれは社会的ドタバタといっていいと思います。社会がどのようなおかしな反応を示すかというところが、小松左京の真髄だと思います。

「ダブル三角」

 女性社会になった未来世界。ひ弱な夫を見限って妻がとった行動とは?

 女性恐怖が表れた作品。この傾向の作品は多く、栗本薫がなにかのあとがきで小松左京の女性観はひどいと書いていたような気がします。ラストがやはり見ものでしょう。シュラバラバンバ。

「機械の花嫁」

 女たちは自堕落な生活をむさぼっていた。生身の男性がいなくなった地球から遠く離れた惑星で男は伝統的な美の形を発見する。

 さらに女性恐怖がエスカレート。こんなこと書いたら怒られるんじゃ?ですが、理想化された女性の姿はやはり素敵です。たとえそれが人間じゃなくてもね。

「宗国屋敷」

 宗国は二人の女性と一人の召使を従えその屋敷で暮らしていた。しかし、何者かが屋敷に侵入して・・・・・・。

 こういうふうに理想的なものを金にあかして使うという作品は好きです。たいていは最後に悲劇的な結末を迎えるんですがね。はかなさというのも美につながっているのでしょう。「パノラマ島」を思い出しました。

「墓標かえりぬ」

 医者のもとに尋ねてきたその男。彼には半分しか体がなかった・・・・・・!

 半分しか体がない男というのは海外作家の短篇にもありました。「漂流教室」に登場した強盗の男とかもその系列ですかね。視覚的イメージが大事な作品です。

「三界の首枷」

 透視能力を持った「僕」はすばらしい肢体をもった娘を妻にしたが・・・・・・。

 誰かに対する呼びかけから始まるという不思議な構成。そして、それがアイデアと絡まりあい、おいしくいただけました。小松左京の描く女性は面白いです。

「女か怪物か」

 異星にたった一人とり残された観測員。日に日に彼の精神は荒んでいき、彼の目には女性の幻覚が見え始める・・・。

 うーん、シチュエーションがよくあるだけに、あまり面白いとは思えなかった。それにラストが曖昧なのは、そんなに好みじゃありません。

「四次元トイレ」

 借金に常に負われているK氏。ある日、彼はトイレのドアが別の世界に繋がっていることを知り、ある計画を思いつく。

 四次元シリーズです。これも平凡な感じですが、やはりユーモアをきかせているところが好きなので。

「四次元ラッキョウ」

 猿たちが夢中になっているその小さなもの。それは不思議な四次元ラッキョウだった。

 壮大なラストがいいですね。ただし、アイデアそのものは驚きがないと思いました。

「四次元オ  コ」

 ラブホテルにやってきた二人の男女。地震が起こり気づいてみると、彼女のアソコが大変なことに・・・!

 SF作家を落語家と重ねて描く描写は多いですが、これもその系統の作品。ラストも落語オチです。しかし、アレの向こうに宇宙が広がっているという描写がなんだかすごいシュールなもんで、とても大好きです。下ネタも僕の好みです。

「蜘蛛の糸」

 多元宇宙の考え方から、小松左京が試みるもう一つの「蜘蛛の糸」。

 笑います。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のパロディ。こういう神様・権威をメチャクチャしてしまう話は大好きなんです。昔、『こち亀』で両津が地獄で革命を起こす話がありましたが、あれと同じような感覚を覚えました。

「仁科氏の装置」

 人生に絶望を感じた仁科氏はその生涯をかけて発明した装置を起動させる。

 装置が起動されてからの描写が楽しいです。生涯かけてつくってるのがコレという矛盾が面白い。

「コップ一杯の戦争」

 酒場のラジオから聞こえるのは、ソ連へのNATOの核ミサイル発射のニュースだった。

 発表誌は『NULL』。一般大衆の世界に対する反応ってこんなものなのかなあ。

「サラリーマンは気楽な稼業・・・・・・」

 未来社会のサラリーマンの苦悩は現代と同じように見える。しかし・・・・・・?

 サラリーマンの悲哀を拡大した作品。しかし、このオチはよく見るものなので、インパクトが薄い。

「模型の時代」

 もはや労働よりも趣味の時代に突入した。人々は競って模型を製作している。世界最小のプラモデルの競争に敗れた主人公は井筒という男と外出するが・・・・・・。

 以前にも同題の短篇集を読んだことがあったはずだが、こんなに面白いものだとは記憶がなかった。井筒っていうのは、筒井康隆がモデルかな?ドタバタの常套手段として、話がドンドン膨らんでいきますが、そこにSFのスケールの壮大さが相俟って、これこそSFという仕上がりになっていると思います。

「ぬすまれた味」

 麻雀で一千万円の借金を背負った主人公はその老人に雇われた。山海の珍味や美女に囲まれた主人公だったが、どうにもおかしい。感覚がないのだ!

 うーん、ラストはもう少し明るいほうが好きかな。この事態をいかに切り抜けることができるだろうという期待があったので残念。

「地球になった男」

 ある日、変身能力があることに気づいた男。彼の変身は次第に規模が大きなものになっていき・・・・・・。

 最初のタイポグラフィから引き込まれる。なにしろこの破壊願望は僕もわかりすぎるくらいにわかるので、巨大ペニスや巨大女陰が世界を襲う様子はおぞましくもあり、同時に爽快でもある。醸しだされるユーモアと同時に、なんだか真剣で神聖なところがあるような不思議な短篇です。

「カマガサキ二〇一三年」

 機械に仕事を奪われて乞食となった二人の男。彼らのもとに未来からある男がやってきた。そいつは自動コジ機なる機会を開発して・・・・・・。

 これも悲しみをはらみつつ笑えるという楽しい短篇。自動コジ機は筒井康隆のエッセイにも登場します。未来の男の口調も楽しいですが、現代の僕たちの口調を江戸時代の人びとがきいたら、やはり驚くだろうな。二人の浪費の仕方が僕は好きですね。

「フラフラ国始末記」

 洋上大学にて彼らは船を領土にし国家であるという主張を始めた。国民は学生たち。この主張に国際社会はどんな反応を示すのか?

 小松左京の作品の学生たちは、やはり昔気質なんですね。現代の学生から見ると軽薄でもなんでもないし、あまりに行動的すぎるでしょう。それは学生運動であったり、左翼活動であったりの時代環境が醸成したものなんでしょうが、そこらに僕は憧れてしまいます。フラー、フラー。

「サマジイ革命」

 老人ホームを舞台に、不良老人たちの巻き起こす上へ下への大騒ぎ。

 題名の断り書きに、「題名の一番上にスの字をつけてもつけなくてもご自由です」と書いてあるとおり、「スサマジイ」。入れ歯ギャグが好きです。駒木咲夫という人物が自分の書いた未来が違っていると人々にいじめられる様子、その駒木咲夫に小便をかけていじめている老人たちに「もと曲木賞落選候補作家の井筒康降じいさん」「天才に紙一重」といわれる干梅一じいさんの登場など、笑いっぱなしです。

「本邦東西朝縁起覚書」

 
 吉野山中カクシ平に、突如として南朝の後裔第一〇二代天皇の位を要求して立つ!最初は誰も、時代錯誤的なヘタな洒落としか思わなかった―――菊花の紋をつけた飛車飛船が頭上を飛び交うまでは!

 面白い。ただ、歴史に詳しくないから、そのへんの細かさがイマイチわからなくて苦しんだ。もうちょっと勉強していたら、もっと楽しめたかもしれない。

 総評:ベストは「地球になった男」です。「紙か髪か」もいいですね。小松左京のドタバタは筒井康隆に影響を与えつつ、与えられつつという感じが僕にはします。壮大なスケールと共に、人情の部分が溢れた叙情性もあるという日本古来の笑いの伝統を受け継いだ短篇集だと思います。

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