『馬の首風雲録』
ブレヒトの戯曲を下敷きにした戦争SF。自分としては三男のトポタンに感情移入しました。『もうひとつの国』に憧れるのは僕も同じです。ドラマ部分ではやはりミシミシの特攻シーンに涙しました。やはり、容赦なく死んでいくところが、筒井康隆の作品らしいし、戦争を「カッコイイ」ものとして教育された戦中教育のことも語っておられて、このあたりは同年代の小林信彦さんの主張とも重なる部分があって、興味深いです。『虚構船団』のようにSF戦争絵巻として、注目すべき作品だと思います。
『火星のツァラトゥストラ』
僕はニーチェを読んだことはありませんが、この作品は楽しめました。流行が伝播していく様子と、大衆化していく思想、そしてもともと注目されていた部分は問題とされなくなり、その「有名性」だけでヒーローと化していくツァラトゥストラの様子にうなりました。ラスト部分は残酷物語ですが、最後の歌には笑ってしまいました。
『くたばれPTA』
悪書追放運動に対して反発した作品。最後に悪者になってやる!と決意して去る様子が筒井節。女性の描き方もいつもにも増してものすごいです。まあ、なんにせよそのすごさは題名に一番表れているような気がします。
『最高級有機質肥料』
究極のスカトロ小説。読んでいるうちに「やめてくれー!」と叫びたい気分になりますが、それでも目は文字郡を追うのをやめられない。糞尿の味を十分に堪能できました。筒井作品の中でもグロ 度が飛び抜けて高い作品だと思います。
『慶安大変記』
由比正雪の乱を下敷きに、浪人(予備校生)と大学生の戦争を描いた作品。もう、すさまじいの一言です。最初読んだ時は、黒澤明の『用心棒』の主人公に似ているなと思ったけど、どちらもダシル・ハメットの『血の収穫』のアイデアを戴いているものだから、似ているのは当然ですね。籠城シーンが好きです。
『あるいは酒でいっぱいの海』
数ある筒井さんのショート・ショートの中でもベスト級の作品。僕はお酒のめないので特に羨ましくはないですが、酒飲みにはたまんないだろうなあと思ったけど、最後の一行にやられました。わはははは。
『ベトナム観光公社』
毒。戦争まで笑い飛ばしてしまいます。ベトナム戦争まで観光化しちゃいました。ダン・シモンズの作品に『ベトナム・ランドへようこそ』(だったかな?)というものがありましたが、いかにも教条的(といえるまででもなかったけど)っぽいあの作品に比べて、こちらは突き抜けすぎです。「すげー、すげー」とただ呟きながら読みました。何度読んでも「すげー」のです。薄っぺらな道徳観念を引っぱがしてくれる作品で、本当の戦争の意味、思考停止に陥りがちな「正義」を瓦解させてくれる大好きな作品です。
『公共伏魔殿』
今度はNHKだ!NHKの地下には飼い殺しにされたタレントがほとんどゾンビ化しながら軟禁されているのです。後半の逃げるところが一番好き。ラストもきれいに輪を閉じるような構成になっていて、一度読んだら忘れることのできない短編です。それだけショッキング!
総評:好きな作品の多い巻です。すべての作品が面白いです!上記はその中でも特にお気に入り、重要作品だと思うものを挙げました。『猫と真珠湾』『時越半四郎』『ほほにかかる涙』『白き異邦人』あたりもすごくいいなあ。
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