毎読新聞の記者澱口は、恋人の珠子をベッドに押し倒していた。珠子が笑った。「どうしたのよ、世界の終りがくるわけでもあるまいし」その頃、合衆国大統領は青くなっていた。日本と韓国の基地に原爆が落ちたのだ。大統領はホットラインに手を伸ばした。だが遅かった。原爆はソ連にも落ち、それをアメリカの攻撃と思ったソ連はすでにミサイルを。ホテルを出た澱口と珠子は、凄じい混乱を第三京浜に見た。破滅を知った人類のとめどもない暴走が始ったのだ。
破滅もののドタバタ。すさまじいです。容赦ないです。ナンセンスです。
中国の軍事基地で始まった些細ないざこざ。それがミサイルの誤発射を招き、米ソの報復合戦につながり、人類は次々と死んで行きます。その死に方も尋常ではありません。急スピードの車のウィンドウを突き破り宙を飛んで死んでいくもの、南極船に乗り込もうとして群がる人々の下で圧死していく人びと、政府専用機に乗り避難しようとする人々は警官隊に撃たれ、乗り込んだ人びとも国会議事堂に突っ込んで死亡。すごくひどい。ディッシュの『人類皆殺し』なんかも目じゃないぜ!
すごくひどいのだけれども、笑ってしまうんですよね。特に米ロの電話のやりとりとか、人類の愚かさに義憤がわくよりも、面白い。笑っちゃいけないことはよけい笑いたくなる、という心理も働くのでしょうか。笑ったあとに寒気が走る、という不思議な感覚です。
ラストで高踏的なSFを書くブライアン・ジョン・バラードというSF作家が出てくるのですが、ちょっと笑ってしまいました。SFのルールというか、そんなものを並べて、この小説がそれら真面目ぶったものを破壊しているのだ!という筒井康隆の心意気が伝わってきます。そして、人類最後の一人、ブライアン・ジョン・バラードくんがつぶやいたのは「Nonsense・・・・・・」。人類が滅亡したって、この宇宙においてはたいした意味はないのさ。
ゴキブリくんがひっくり返って終るラストが実に寒々しくて、人類の演じた大ドタバタ劇、祭の後のさみしさみたいなのがあって、すごくいいんですね。無人の街というシチュエーションも好きですし。『幻想の未来』(原型の題は『無機世界へ』)といい、初期の作品といい、彼の作品は最後には無に突き進んでいくのです。すべてを破壊し終わった後の清々しさが残る凄まじい一品です。
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COMMENT
無題
おそろしや
読んだなぁ~
筒井康隆は神様みたいな存在です。
空と陸が愛し合う結末の『無機世界』や
ゴキブリが最後に東京の町を歩く『霊長類南へ』
何100回読んでも飽きません、毎回新鮮な気持ちの狂気を得られます。
筒井康隆は神様です。
イタチと文房具が戦争したり、夢を分析してバーチャルな世界の戦争が起こったり。
狂ってます。嬉しいです。
買ったのに読んでないやつもあるんだ、、、
読みきろう全部名作だから
Re:読んだなぁ~
僕にとっても、筒井康隆という作家は特別な存在です。
全集も買いましたし、ほとんど作品は読んでいるつもりなんですが、近年出たものはなかなか時間の関係上読めていないのが現状です。読まなきゃ!という気分にさせていただきました。
ライトノベルに挑戦したような作品もあると聞き及んでいるので、ぜひ挑戦してみたいと思います。