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SF読もうぜ(201) 筒井康隆『霊長類南へ』

 毎読新聞の記者澱口は、恋人の珠子をベッドに押し倒していた。珠子が笑った。「どうしたのよ、世界の終りがくるわけでもあるまいし」その頃、合衆国大統領は青くなっていた。日本と韓国の基地に原爆が落ちたのだ。大統領はホットラインに手を伸ばした。だが遅かった。原爆はソ連にも落ち、それをアメリカの攻撃と思ったソ連はすでにミサイルを。ホテルを出た澱口と珠子は、凄じい混乱を第三京浜に見た。破滅を知った人類のとめどもない暴走が始ったのだ。

 破滅もののドタバタ。すさまじいです。容赦ないです。ナンセンスです。

 中国の軍事基地で始まった些細ないざこざ。それがミサイルの誤発射を招き、米ソの報復合戦につながり、人類は次々と死んで行きます。その死に方も尋常ではありません。急スピードの車のウィンドウを突き破り宙を飛んで死んでいくもの、南極船に乗り込もうとして群がる人々の下で圧死していく人びと、政府専用機に乗り避難しようとする人々は警官隊に撃たれ、乗り込んだ人びとも国会議事堂に突っ込んで死亡。すごくひどい。ディッシュの『人類皆殺し』なんかも目じゃないぜ!

 すごくひどいのだけれども、笑ってしまうんですよね。特に米ロの電話のやりとりとか、人類の愚かさに義憤がわくよりも、面白い。笑っちゃいけないことはよけい笑いたくなる、という心理も働くのでしょうか。笑ったあとに寒気が走る、という不思議な感覚です。

 ラストで高踏的なSFを書くブライアン・ジョン・バラードというSF作家が出てくるのですが、ちょっと笑ってしまいました。SFのルールというか、そんなものを並べて、この小説がそれら真面目ぶったものを破壊しているのだ!という筒井康隆の心意気が伝わってきます。そして、人類最後の一人、ブライアン・ジョン・バラードくんがつぶやいたのは「Nonsense・・・・・・」。人類が滅亡したって、この宇宙においてはたいした意味はないのさ。

 ゴキブリくんがひっくり返って終るラストが実に寒々しくて、人類の演じた大ドタバタ劇、祭の後のさみしさみたいなのがあって、すごくいいんですね。無人の街というシチュエーションも好きですし。『幻想の未来』(原型の題は『無機世界へ』)といい、初期の作品といい、彼の作品は最後には無に突き進んでいくのです。すべてを破壊し終わった後の清々しさが残る凄まじい一品です。
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無題

  • by おおぎょるたこ
  • URL
  • 2007/07/05(Thu)23:39
  • Edit
この作品は私も大好きですね。悪ふざけにも近いドタバタの饗宴と,最後の実に静謐な場面とのコントラストがよろしいですなあ。第三者的存在となって,人類の滅亡を見つめているような気持ちになります。一陣の風がプレイヤーを動かして,無人の街に流行歌を流し,歌が終り,再び静寂が広がる。心に残るシーンです。

おそろしや

  • by A・T
  • 2007/07/07(Sat)16:16
  • Edit
 この作品を読むのも三度目になるのですが、やはり「ナンセンス・・・・・・」と呟くシーンと、ラストのシーンが非常に印象的ですね。ドタバタで人類を滅亡させるというところが、戦争や権力(反権力すらも)を笑い飛ばしてきた筒井康隆らしいと思います。逆にたんねんな描写がドタバタを書き飛ばしているわけではないことが感じられて、作者のしつこさというか、異常な生真面目さみたいなのを感じて、ぞっとさせられるところがありました。いや、しかし、ほんとすごい作品です。

読んだなぁ~

  • by じゃんリョウタ
  • 2016/03/06(Sun)15:22
  • Edit
高校生の時に七瀬3部作を読みはまって以来
筒井康隆は神様みたいな存在です。
空と陸が愛し合う結末の『無機世界』や
ゴキブリが最後に東京の町を歩く『霊長類南へ』
何100回読んでも飽きません、毎回新鮮な気持ちの狂気を得られます。
筒井康隆は神様です。
イタチと文房具が戦争したり、夢を分析してバーチャルな世界の戦争が起こったり。
狂ってます。嬉しいです。
買ったのに読んでないやつもあるんだ、、、
読みきろう全部名作だから

Re:読んだなぁ~

  • by A・T
  • 2016/03/08 00:15
コメントありがとうございます。

僕にとっても、筒井康隆という作家は特別な存在です。
全集も買いましたし、ほとんど作品は読んでいるつもりなんですが、近年出たものはなかなか時間の関係上読めていないのが現状です。読まなきゃ!という気分にさせていただきました。

ライトノベルに挑戦したような作品もあると聞き及んでいるので、ぜひ挑戦してみたいと思います。

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