日本中の全9843駅に下車した究極の鉄道好き(テツ)・横見浩彦が、鉄道は交通手段としか思っていない女性マンガ家キクチを日本全国引きずり回す!! 観光・グルメ・湯けむりとは一切無縁の、ひたすら鉄道に乗りまくる実録・鉄道珍道中! 一応、情報旅マンガ……(『IKKI』内公式サイトより)
僕の父親はテツ(鉄道オタク)です。
何テツに属するのか、不勉強な僕にはわかりませんが、家にはSLのポスターや、自ら撮影した写真や、
SLが坂を上る様子を延々と撮ったビデオがあります。それだけでなく、どこから
パクってきた貰ってきたのかわからないような品(車掌の腕章とか制帽とか)も飾ってあります。
幼い頃、父に連れられて
まったく興味のないSLに乗せられたり、
まったく興味のないブルー・トレインの絵本を買ってこられたり、別に
乗る必要もない寝台特急に乗せられたり、
別に興味のない車型番号の解説を聴かされたり、散々な目にあってきました。僕は実は家にいるのが一番好きだったんだよ。
そんな父親の
負の遺伝子を引き継いだのか、僕も鉄道マニアではありませんが、マンガや小説オタクになってしまいました。・・・・・・まあ、そんなことは置いておいて。
このマンガはそんな僕の父親のようなテツの頂点に君臨する男、横見浩彦氏が旅の案内人になって、マンガ家と編集者と旅をするルポ漫画となっています。ただし、ただの旅マンガと侮ってもらっては困ります。横見氏は日本全国のJRを全駅下車した男(1巻より)。基本的にこの旅は鉄道を利用して
駅を訪れることを中心にしてストーリーが進んでいきます。せっかくの旅なのに、観光スポットにも行かずひたすら駅を鑑賞する・・・・・・。
そんなもののどこが楽しいんだ・・・・・・。
編集長と編集者がテツだからという理由で企画されたこのマンガ。その陰謀の渦の中で、一人正常な感覚を持っていたのは、マンガ担当のキクチさんです。このマンガは、一見鉄道旅マンガのように見せかけて、テツとキクチさんのような一般人の温度差を描くギャグマンガとなっております。
いわゆる「濃いオタク」と呼ばれるような人物は、一般的な感覚とは少しズレている人も多い。同じマンガの1巻を何十冊も買ったり、自分の車にアニメのキャラクターをでかでかと描いたり・・・・・・。一般人には理解できない領域です。そして、横見氏はテツの頂点に君臨する男。普通の人であるわけがありません。
当初、「マンガが描けるだけでもうれしいのに、タダでガイド付きの旅なんて!」と期待していたキクチさんは、「観光なんかしてる場合じゃない(横見テツ語録④)」と一喝されます。オタクというのは、自分の欲望に忠実な人たちです。時として、大人でありながら子どもの純粋な心を持った彼らは自分中心の行動に陥りがちであり、また自分の価値観を人に押し付けがちです。それは
わがままと一言で言い切ってもいいのですが、それがトラブルのタネをいろいろなところにバラまくことになり、ルポマンガとしては取り上げるネタを増やすことにもなっています。そんな横見氏の強烈なキャラクターが、このマンガの核となっており、それに振り回されることを一般的な感覚を持ったキクチさんが突っ込むことによって、笑いや読者の共感を生み出していると思います。
かつて、テツの父親に振り回された僕としては、キクチさんの気苦労はよく理解できるし、その突っ込みにいちいち肯いてしまうのです。ただ、鉄道の素晴らしさはよく伝わってますよ、ええ。個人的な鉄道に対する怨恨が深いだけでねえ、フフフ。
その横見さんの映像は、『月刊IKKI』創刊号とヤフー動画(07年いっぱい)で見ることができます。その強烈なキャラクターは単行本でキクチさんが仰っているように、たしかにマンガそのままです。「ナオエ~」と叫ぶ横見氏の様子は鉄子ファン必見です。
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