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SF読もうぜ(264) ジャック・フィニイ『盗まれた街』

 アメリカ西海岸沿いの小都市サンタ・マイラで、奇妙な現象が蔓延しつつあった。夫が妻を妻でないといい、子が親を、友人が友人を偽者だと思いはじめる。はじめ心理学者は、時おり発生するマス・ヒステリー現象と考えていた。だがある日、開業医のマイルズは友人の家で奇怪な物体を見せられた。それは人間そっくりに変貌しつつある謎の生命体――宇宙からの侵略者の姿だったのだ!奇才フィニイが放つ侵略テーマSFの名作。

 なかなか面白かったです。

 衝撃を受けるとかそういうところまでは行きませんが、なんとなく面白い、というのが全般的に僕が感じるフィニイの印象です。日常の何気ないところから発信して、それがなんとなくエスカレートしていく。突如として事が起るという感じではなくて、どこまでも日常の延長線上として感じてしまう、実はそこがフィニイのすごいところじゃないのかなあと感じます。

 『ゲイルズバーグの春を愛す』などの短篇から入った僕としては「フィニイの侵略もの?大丈夫か?」と思ったりしたのですが、やはり、なんだか印象が薄いのは否めないですね。もっとも、それは僕の尊敬する筒井康隆さんが二十代のベストに入れていた作品(「緑魔の町」にその影響が見えます)だという期待感が大きすぎたのかもしれませんが。日常性の延長に続いていくその薄ら寒い恐怖感のようなものはわかるのですが、宇宙戦争とか刺激の強いものが好みなので少し薄味すぎました。

 でも、お決まりの昔はよかった式の台詞も登場しますし、現実への違和感というものが常に頭のある作家なのかなあと思いました。侵略というのはおそらく後付けの理屈で、本来フィニイが描きたかったのは家族が偽者になっているという恐怖であるように思います。本質的にファンタジイの作家なので、理屈付けがマズイ部分がちらほらあったように思います(人体模型のところとか)が、宇宙人たちの感情のないその文化性というか、生態の違いが現れる次の文章が一番興奮しました。

 「ベンネル先生、生命の本能とは、可能なかぎりにおいて生存するということですよ、それ以外のいかなるモチーフも、この真理をさまたげることは許されないのです。悪意があるわけではない。人類はバッファーローを憎悪していたのか?否だ。われわれも同じことです。われわれは、しなければならないからやるのだ。これがわからないのですかね」

 全体的に甘ったるい雰囲気が漂っていて、ああ、フィニイの作品だなあという感じがしました。一長一短ありますが、読んでみて損はなかったです。映画のおかげで新装版として出版されたようですが、名作はどんどん復刻してもらいたいですね。フィニイは短篇集『レベル3』や『ふりだしに戻る』などが気になっているので、時間があれば読んでみたいと思います。

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