大西洋を行く客船プロヴァンス号に無線が入った。《貴船にルパンあり。一等船客、金髪、偽名はR・・・・・・》あの怪盗紳士がこの船に!いったい誰がルパンなのか?船客たちは恐怖と興奮に沸きたつが――世界に知らぬ者なきヒーローが誕生した記念すべき「アルセール・ルパンの逮捕」など、傑作九篇を収録。ルパンの前にルパンなく、ルパンの後にルパンなし。変幻自在、神出鬼没、快刀乱麻の怪盗の活躍を、最新訳で贈る第一弾
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「アルセーヌ・ルパンの逮捕」
大西洋上のプロヴァンス号に一報が入った。あの怪盗アルセーヌ・ルパンが船内に偽名を使って乗船したというのだ。はたして誰がルパンなのか?
女たらしのルパンのイメージがよく出た作品のような気がします。ホームズがストイックなのに対してルパンはさすが犯罪者らしく、あるところまでは奔放ですね。ラストの部分がいいです。
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「獄中のアルセーヌ・ルパン」
マラキ城のカオルン男爵のもとに獄中にいるはずのアルセーヌ・ルパンより盗みの予告状が届いた。はたしてこれは悪戯なのか?それとも・・・・・・。
予告状を出したり、とにかく派手な活躍こそがルパンの真骨頂。今回やり方は地味ですが、ガニマールとの会話が秀逸。
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「アルセーヌ・ルパンの脱獄」
アルセーヌ・ルパンは自信たっぷりにガニマール警部に脱獄を断言してみせた。ルパンには厳重な警戒態勢がしかれていたが・・・・・・。
いったん脱獄した後に正面玄関から名乗りを上げて入っていくところがステキ。トリックはムリがあるような気がしないでもありませんが、それはそれ、ルパン世界の変装術の名人という大前提が救っています。これぞルパンという作品でしょう。
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「謎の旅行者」
逃亡中のルパンは列車内で強盗に襲われ手足を縛られてコンパートメント内に転がされていた。手配書も回っている中、ルパンはこの状況をどう逃れる?
口が巧い。ここまで人の心を操るのはもはや芸術技です。逃げれる状況であえて逃げずに冒険してみせるところがやっぱりルパン。この不可能事に挑戦していく姿勢は見習いたいものです。
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「王妃の首飾り」
数奇な運命をたどったその首飾りが盗まれた。お針子として虐げられていた女が疑いをかけられ、家を追い出されたが・・・・・・。
最初の盗み。人って環境によって将来を左右されるなあと思いました。ルパンの怒りが伝わってきますが、そこまでする必要性をあまり感じなかったのはイジメの部分があまりなかったからでしょう。
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「ハートの7」
ある日、帰宅するとカーテンの陰の人影に、動くと命がないと警告された「わたし」。はたして何者が?
隠し扉とか隠し部屋とか、ルパンシリーズを読むたびにワクワク・ドキドキしたものです。ハートの7の使い方がとってもステキ。
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「アンベール夫人の金庫」
ある日、強盗から救ったことをきっかけにアンベール家に入り込んだルパン。彼は金庫の中の証券類をねらったのだが。
ルパンらしさがあまり見られなくて残念。まあ、失敗談なので当たり前ですか。
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「黒真珠」
ルパンが盗みに入ったその部屋で夫人は殺害されていた。
真珠の隠し場所がなかなか面白かった。ガニマールが銭形のとっつぁんみたいな扱いを受けているのが笑った(影響関係は逆だけど)。
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「遅かりしシャーロック・ホームズ」
シャーロック・ホームズがこの地に来るという。そのことを聞きつけたその日、ルパンは盗みを決行した。彼はそこで意外な人物と・・・・・・。
ホームズは時々まぬけだけど、こんなにまぬけじゃないぞ!もともとはドイルにホームズの名前を使用するのを怒られて、Herlock Sholmes(エルロック・ショルメ)に変更したらしいのですが、「怪盗対名探偵」を子どもの頃読んだとき、僕は激怒しましたよ。ホームズはこんな奴じゃない!というわけで、訳するときはホームズの名前ははっきりいって使わないでいただきたい。
総評:楽しすぎる・・・・・・。ホームズもルパンも共通するところは両者の芝居がかった演出ですね。よりドラマティックに現実を演出するところが両者とも素敵だと思います。新潮の堀口大学訳のルパンの自称が「わし」だったので萎えて、ハヤカワ版に変更しました。ところが、本屋には新潮版は置いてあるけど、ハヤカワ版は置いていないんですねえ。ルパンの自称はやっぱり「わたし」かもしくは「我が輩」でしょう!子どもの頃は「我が輩」でも全然違和感なかったんですけどねえ。あと、もう一度繰り返しますが、ほんとうにホームズの名前は使わないでほしい。
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