自ら歴史小説家と称していたドイルは『最後の事件』をもってホームズ物語を終了しようとした。しかし、読者からの強い要望に応え、巧妙なトリックを用いて、滝壺に転落死したはずのホームズを「帰還」させたのである。本編はホームズ物語の第三短篇集で、帰還後第一の事件を取上げた『空家の冒険』をはじめ、『六つのナポレオン』『金縁の鼻眼鏡』など、いよいよ円熟した筆で読者を魅了する。
☆
「空家の冒険」
ロナルド・アデヤ卿の殺害された現場を見に行った帰り、ワトスンはよぼよぼの老人にぶつかった。その老人が後にワトスンの前に姿を現すが・・・・・・。
再登場のときのホームズの茶目っ気が最高です。ライヘンバッハの滝から言葉通り蘇ってきたホームズの冒険。空家での覗き見もドキドキものです。
◎
「踊る人形」
子どもの書いたような「踊る人形」。その落書きはキュビット氏の妻を脅かしているようだが・・・・・・。
これも昔の恋人が・・・・・・的なお話なのですが、なんといっても人形の微妙な気味悪さがよい。暗号解読のときの理路整然さも小気味よい。
◎
「美しき自転車乗り」
若き婦人の自転車の後をいつもつけてくる怪しき男。その男は不思議にも消えてしまうとその依頼人は言うのだが・・・・・・。
ワトスンが好きなので、ワトスンの冒険が愉快。冒険的な側面のよく出た作品だと思います。
○
「プライオリ学校」
高名な男爵の子息が学校寮からさらわれた。子どもはいったいどこに?
農場での調査とやりとりが面白い。
○
「黒ピーター」
黒ピーターと恐れられる男が離れの中で殺された。胸には銛が突き通り、さながらピンでとめられた甲虫のように・・・・・・。
トリックが普通なので、そんなに楽しめるお話ではないけれど、疑われる人物やピーターの悪行などの部分が面白かった。
☆
「犯人は二人」
高貴な人々を振るわせる脅迫王との話し合いは決裂した。ホームズとワトスンは脅迫王の家へ忍び込むことを決意する。
事後譚のホームズの茶化すような台詞が最高です。異様な状況を作り出したこのアイディアが素晴らしい。悪漢との対決、潜んでいるスリル、悪漢の滅殺、ユーモア溢れるエピローグ、とすべてに心震えます。
○
「六つのナポレオン」
ナポレオン像が壊される事件が頻発していた。当初は偏執狂のしわざだと睨まれていたが・・・・・・。
このパターンは後の作家に使い回されているから、あまり新鮮味がないので物足りない感がありますね。子どもの頃に読んだときは非常に驚いたものですが。
○
「金縁の鼻眼鏡」
誰しもその男を殺しそうではなかった。しかし、その男は刺殺されたのだ。その手に握られていたのは金縁の鼻眼鏡・・・・・・。
「帰還」の代表作とされているようですが、そんなに感銘は受けなかった。動機の面は非常に面白かったし、隠し小部屋から人物が登場するときにわくわくはするのですが。
○
「アベ農園」
その強盗三人組は夫を殺し、妻を縛り転がして去っていった。ホプキンスはホームズに事件の応援を頼む。
ホームズシリーズには前途のある男女がひどい男を殺害して、ホームズが真相をしりつつ放免してあげるというパターンはけっこう多い気がします。ホームズの細かなスリルが楽しいし、ワトスンとホームズの芝居気のきいた台詞もいいんだけど、やっぱりちょっとマンネリ感があるのは否めません。
○
「第二の汚点」
大戦を引き起こすかもしれない重要文書が何者かに持ち去られた。この事態に政府の閣僚はシャーロック・ホームズを頼ることとなる。
なかなか国際謀議的なにおいのする少しスケールの大きな作品。後半にかけてがやはり面白いし、結末のまとめ方がうまい作家だなあと思います。
総評:ベストは「犯人は二人」。これは子どもの頃から大好きな作品です。しかし、もっとも興奮する瞬間は振り返ったらホームズがいるところでしょうね。高名な「踊る人形」も変な人形君たちのダンスが楽しいです。もうこれでシリーズの半分以上を読み終えました。名残惜しくもどんどんと読み進みたいと思います。
PR
COMMENT