少女期の兄との近親相姦により、美しい“愛”のオルガスムスを味わった麗子は、兄の肉体への憧憬を心に育み、許婚者をも、恋人をも愛することができない。麗子の強烈な自我は、彼女の不感症を癒すべく、懇切な治療を続ける精神分析医の汐見医師をさえ気まぐれに翻弄し、治療は困難をきわめる――。女性の性の複雑な深淵に迫り、人間心理を鋭く衝いた、悪魔的魅力をたたえた異色作。
面白いぞー。
解説は僕の大好きな澁澤龍彦。解説によれば、この作品は三島文学でも主流の作品ではなく、平明な文体で書かれているエンタテイメントとしても上出来の作品だそうです。確かに面白いわー。
精神分析のいかがわしさ(実証が難しいですからね)と人間の醜い(とされている)願望に深く押し入っていく物語にこちらも惹きこまれていきます。近親相姦だの不感症だの不能だの、普段はタブーとされていることが続々と出てきて、禍々しい楽しさ。
精神分析の治療は、もつれ合った糸を解き解いていくように、ミステリーの謎を解くようなサスペンスに満ちていて、学術書を読んでいるだけでもけっこう楽しいです。その面白い部分を抽出したような物語で、分析医が患者に振り回される様子、真相の深い闇を照らし出した時の快感、患者の倒錯した行為・・・・・・すべてが計算しつくされた感じに配置されていてすごいです。
三島由紀夫の物語は理屈っぽくて、なかなか手に取りづらかったのですがこの作品はその理屈っぽさが「精神分析医の語り」ということで不自然さがあまりなく、すっと入っていけました。これを機に三島の他の作品もどんどん読んでいきたいと思います。
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